2012.05.28 : 平成24年防災対策特別委員会
「初期消火とスタンドパイプ」

早坂委員 

 東日本大震災は、死者の九割が溺死、すなわち水の被害でありました。一方で、阪神・淡路大震災は、九割が圧死、窒息死、焼死という建物と火による被害でした。
 そこでまず、火に関することから伺います。
 火災による死亡、焼死には、平成七年阪神・淡路大震災タイプと大正十二年関東大震災タイプがあると私は考えています。これをしっかり区別した上で、質問を進めてまいります。
 兵庫県は、阪神・淡路大震災から十年が経過した平成十七年十二月に、阪神・淡路大震災の死者に係る調査を発表しました。それによると、建物の倒壊による死亡、すなわち圧死、窒息死、外傷性ショック、頭部、頸部、内臓損傷が八五%、火災による死亡、焼死が七%となっています。
 地震発生時刻は早朝五時四十六分で、まだ火を多く使う時間ではありませんでした。しかも、風速は秒速二メートル程度と通常の半分程度、当時の写真を見ると、煙が真っすぐ上に上がっていることがわかります。火災による被害は、周辺状況から想定されるものとしては最小規模のものでした。しかしながら、現実には、皆さんご存じのような延焼火災が多く発生し、被災地は火の海となったのです。
 神戸市消防局の調査によると、地震発生の五時四十六分から六時までの最初の十四分間に、神戸市内だけで五十三件の火災が発生しています。人口百五十万人規模の神戸市の消防力は、同時に四、五件程度の火災に対応できる能力でした。
 水道管がやられ、水が出なかったこと、また、応援に来た他県の消防隊のポンプ車の口径が合わず、消火栓にホースをつなげなかったことなど、幾つもの想定外を抜きにしたとしても、能力の十倍以上の火災発生では、どんなに頑張っても火災を食いとめることはできなかっただろうと思います。
 しかしながら、出火直後であれば、火の勢いはまだ大きくなっておらず、消防の力をかりなくても火を消すことができたはずです。つまり、初期消火が機能していれば、このような大火災にはならなかっただろうというのが、私たちが学ぶべき教訓だといえます。
 先日、都議会防災対策特別委員会で視察に行った兵庫県神戸市長田区で、大変興味深い二枚の写真を見せていただきました。それは、地震直後に撮影した倒壊建物の写真と、やや時間があって延焼火災に巻き込まれたその建物の写真でした。
 阪神・淡路大震災で焼死した方のほとんどは、実は、倒壊建物の下敷きになり、それで身動きができないところに火災が迫り、焼死したのです。つまり、先ほど申し上げた阪神・淡路の死亡原因である焼死七%は、本来、建物倒壊に起因するもの八五%にプラスして考えるべき同一のものなのであります。
 一方で、大正十二年の関東大震災でも多くの死者が発生しました。こちらはお昼どきの十一時五十八分に発生し、関東全域で強い風が吹いていたため、全体の死者十万人、東京市内だけでも五万八千人が死亡したといわれています。
 東京市内の死者のうち八七%が焼死であり、市内の四五%が焼失しました。四万人もの死者が出たことで有名な本所被服廠跡地は、実は二万坪、七千平方メートルの広大な空き地であり、大勢の方が避難してきたところに火災旋風が襲ってきたのです。ここが阪神・淡路大震災と異なる大きなところです。
 そこで質問です。
 東京都がさきに発表した新たな被害想定では、東京湾北部地震、冬の夕方午後六時、風速毎秒八メートルの場合、死者最大九千六百人、うち焼死者は四二%、四千人とされています。
 今回の被害想定の火災延焼や焼死者に関する部分は、どのような被害を想定したものなのか伺います。

◯笠井総務局長

 火災による被害に対し適切に対策を講じていくためには、被害像を実態に即してより正確に把握することが重要でございます。
 このため、今回の想定では、火災による延焼に関しては、建物一棟一棟の耐火性を反映するとともに、都内の気象観測点における過去の気象データに基づいて風速設定を行いました。
 また、死傷者につきましても、過去の火災における被害状況のデータに基づき、地震発生時における火災被害の対応を踏まえ、出火した家屋から逃げおくれて被災する場合や、建物が倒壊して家屋内に閉じ込められて被災する場合、延焼が拡大して火災に巻き込まれて被災する場合の三つの場面を想定し、算定を行うなど、より実態に即した被害想定を策定いたしました。

早坂委員

 ところで、初期消火に有効なのは消火器です。しかしながら、今回の質問に当たって、消火器の設置基準を調べてみると、これがびっくりするほど緩いのです。
 例えば、昭和三十年代に着工された共同住宅では、設置に係る当時の消防法令の免除規定が適用され、消火器や屋内消火栓などの設置義務が今も免除されています。つまり設置義務はありません。
 その後、消防法令は幾度となく改正され、現在、新築される共同住宅では、住宅用消火器の設置が義務づけられています。また、スプリンクラー設備も、認知症高齢者グループホームでの痛ましい火災を受け、現在では、社会福祉施設については、二百七十五平方メートルという小規模な施設にも設置が義務づけられ、その安全性が確保されています。
 しかしながら、それらの規定には遡及効果がないため、消火器の設置すらされていないところが膨大にあるのです。これには古い都営住宅も含まれ、消火器が設置されている都営住宅は四割にすぎません。
 既存不適格建物という概念があります。建築基準法では、新築当時の基準に適合していれば、その後、法基準が改正されても、その建物を新しい基準に合わせる義務はありません。
 一方で、消防法では、ホテルやデパートなど不特定多数が使用する施設には、常に最新の基準が適用になります。つまり、建築基準法より消防法の方が厳しいのです。ただ、その規定は、不特定多数が使用する施設に限られており、今回のテーマである共同住宅に関しては、消防法でも既存不適格が許されているのです。
 単純に考えて、古い建物ほど耐火性能が低く、新しい建物の耐火性能は高いと思われます。にもかかわらず、より危険な古い方に消火器の設置義務が免除されているのです。
 火災の発生を知らせる住宅用火災警報器の設置が義務づけられた今日、初期消火に有効な消火器が、古い建物が昔の基準のまま設置義務がなくていいわけがありません。今後、住宅用火災警報器に倣って、消火器設置の義務化を推進すべきだと強く提案いたします。
 次に、水に関して伺います。
 火を消すのに必要なのは水です。ところが、避難場所がどこにあるか関心は持っても、消防水利がどこにあるかという意識を持つことは、極めてまれであります。
 私は、最近、スタンドパイプというものの存在を知りました。消火栓は、これまで消防隊だけが使えるものというイメージがありましたが、このスタンドパイプを消火栓に取りつけることで、市民も消火栓を使うことができるのです。
 東京が震災で火災が同時多発した場合、阪神・淡路大震災同様、消防隊の助けを求めることは困難です。消防団あるいは市民自身の初期消火が何としても必要ですが、これに有効なのがこのスタンドパイプなのです。
 震災時のみならず、平時でも、このスタンドパイプは、消防車が入っていかれないような狭隘道路などで有効です。ちなみに、我が杉並区では、すべての小中学校が震災救援所となっており、ここに一本ずつスタンドパイプを既に配布済みです。
 消火栓を使うのが、消防隊だけでなく市民にまで広がったという意味で、極めて画期的なことだと私は思います。
 お話を戻しますが、初期消火に必要なのは水です。
 そこで、震災時などに防災市民組織や地域住民がD級ポンプやスタンドパイプを活用して初期消火に当たるためには、日ごろから消防水利の設置場所や活用方法を十分に理解しておく必要があります。東京消防庁の取り組みについて伺います。

◯北村消防総監

 お話のとおり、防災市民組織や地域住民が震災時に初期消火活動を効果的に行うためには、消防水利の設置場所や活用方法について把握することが重要であると認識しております。
 このことから、東京消防庁では、水利標識に防火水槽に関する広報板を設置しているほか、消防水利や防災資器材等を記した住民による防災マップづくりを区市町村と連携し指導しているとともに、今後も、防火防災訓練を通じて、消防水利の場所や活用方法などについて積極的な周知に努めてまいります。