2008.9.26 : 平成20年第3回定例会(第13号)
「学校における震災対策」

早坂委員

 二十九億円。我が党の緊急要望を受け、東京都が提出した小中学校耐震化事業の補正予算です。
 阪神・淡路大震災では、死者の九五%が即死でありました。このことは、大震災によって命を失うのは、地震に襲われた瞬間だということを意味しています。すなわち、地震の第一撃からいかに身を守るかこそが震災対策の本丸であり、建物の耐震化なくして、大震災から命は守れません。食糧の備蓄や仮設住宅は、あくまで生き残った後の話です。
 都内の公立の小中学校全体では、七千五百棟の校舎があります。このうち四分の一、千七百棟が耐震性に欠けています。小中学校の校舎の耐震化は、子どもたちの命を守るために極めて重要な施策です。ましてや、学校は災害時の避難所になるところです。学校に避難しようと行ってみたら、地震で崩れていたではお話になりません。中国四川大地震による学校倒壊の悲惨な状況は記憶に新しいところです。
 では、写真をごらんください。(パネルを示す)中越沖地震で被災した学校で、和歌山県の臼井防災士が撮影したものです。ごらんのとおり、窓の外には、耐震化工事をした証左の筋交いが見えます。一方、教室の中に目を移すと、ロッカーが倒れています。
 では、次の写真をごらんください。こちらは職員室の状況です。ロッカーが倒れ、テレビが落下しています。教室にもロッカーやテレビがあるでしょう。授業中だったらどうなっていたか。理科室や保健室の状況はどうか。化学薬品が飛び散っている可能性があります。
 では、もう一枚ごらんください。こちらは、岩手・宮城内陸地震のものです。ピアノがひっくり返っています。大地震の際、ピアノが走ってくるというのは、防災の専門家の間ではよく知られた話ですが、このようにひっくり返るケースすらあるのです。周囲にお子さんや先生がいたら致命的な被害を受けていたかもしれません。
 建物の耐震化を進めることが、大震災から命を守る大前提です。それと同時に、室内対策、すなわち家具やピアノの固定、ガラスの飛散防止がとても重要であることがおわかりいただけるかと思います。
 交通事故に例えるならば、車の躯体を強くするのがまず第一。その上で、シートベルトをしなければ、大けがあるいは死に至るということです。写真は用意しませんでしたが、地震により家具の転倒防止器具が外れてしまった例も数多くあります。素人の簡単な取りつけでは、我々が想定するような大震災には耐えられないものも出てくるのです。家具の転倒防止に気をつけましょうというスローガンだけでは限界があります。真に効果をもたらすためには、一定水準の技術が求められます。
 これらに対する方策も含め、学校における震災対策に関してご見解を伺います。
 ところで、地域危険度の結果などを踏まえ、東京都は、平成十五年度に策定された防災都市づくり推進計画の見直しを行うとしています。先ほどの交通事故の例えでいえば、道路の見通しをよくしたり、道幅を広げたりという大きなまちづくりからの対策がこれに当たります。
 震災対策は、規模の大きい方から順に、木造密集地域の解消や狭隘道路の拡幅、次に個別の建物の耐震化や不燃化、三つ目に室内の家具固定やガラス飛散防止、これらいわゆるハード対策こそが、地震の第一撃から命を守る何よりの手だてです。
 東京をマグニチュード七クラスの大地震が襲う可能性は、今後三十年以内に七〇%。ここで気をつけなければならないのは、大地震は三十年後に発生するということではなく、きょう起きる可能性も含めて、七〇%だということです。
 こうした警告を耳にしても、私だけは大丈夫という正常化の偏見ゆえか、震災対策は、現実にはなかなか進んでいません。先ほど警視総監が切々とお話しされた振り込め詐欺も、まさか私がという同じ心理メカニズムによるものだと私は思います。
 震災対策にもいろいろあります。それが、地震の第一撃から命を守るためのものなのか、それとも生き残った後の対応策なのか、この両者をはっきり区別しないまま、震災対策という大きなくくりの中で議論されていると私は考えます。
 震災対策の本丸は、命を守ることにあります。木造密集地域解消などの防災まちづくりを進めるとともに、学校だけでなく、さまざまな建物の耐震化促進などのハード対策を今こそ重点的に進めるべきです。知事のご見解を伺います。

◯知事(石原慎太郎君)

 早坂義弘議員の一般質問にお答えいたします。
 建物の耐震化についてでありますが、南関東における大地震発生の切迫性が指摘されておりまして、東京では、直下型地震は、あす、いや、今夜起きてもおかしくないということであります。
 多数の被害者を出した阪神・淡路大震災では、死者の八割は建物等の倒壊による圧死であったようであります。
 建物の耐震化は喫緊の課題でありまして、都は全力で取り組んでおります。とりわけ、緊急輸送道路を最優先に確保するため、全路線を対象に沿道建物の耐震化助成を実施しております。
 建物の耐震化は、所有者の意識啓発が不可欠でありまして、八月に、約五十の関係団体から成る耐震化推進都民会議を立ち上げました。この会議を中心に、民と官がスクラムを組んで、まず耐震化の機運を高めていかなければならぬと思います。
 ある哲学者がいっておりましたが、人間というのは実にいいかげんなもので、だれも人間は必ず死ぬということは知っていても、自分が死ぬということを信じている人間はほとんどいないということでありまして、この耐震化についても、まちに行って話をしますと、いや、石原さん、必ず地震は来る、東京は危ないよと。あなたのところ、木造で危ないんじゃないの、いや、うちは大丈夫、ここは絶対来ないと。妙な確信があって耐震化が進んでおりませんが、やっぱりそういう気風というものを根本で変えていきませんと、この問題は解決していかないと思います。
 耐震化普及のための啓発DVDもつくらせましたので、こういった手段も活用して耐震化の促進を図り、地震が怖くない東京の実現を目指していくつもりでございます。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。

〔教育長大原正行君登壇〕

◯教育長(大原正行君)

 学校における震災対策についてお答えを申し上げます。
 都教育委員会はこのたび、公立小中学校等施設の耐震化を平成二十四年度までに完了することを目標とし、区市町村に対して財政支援及び人的支援を行うことといたしました。
 次代を担う児童生徒の身体、生命の安全を確保するためには、建物の耐震化に加え、校内の家具類の転倒、落下防止策を講ずることが極めて重要でございます。
 転倒、落下防止につきましては、これまでも学校設置者である区市町村が取り組んできたところでありますが、その取り組みは自治体ごとに異なっておりまして、必ずしも十分とはいえない状況であるというふうに考えております。
 そのために、都教育委員会は、東京消防庁と連携いたしまして、専門家を講師とする講習会を開催するなど、区市町村教育委員会に対しまして、転倒、落下防止策の重要性を周知しますとともに、技術的な支援を行ってまいります。