2009.09.15 :平成21年第3回定例会
「富士山噴火」

〇議長(田中良君) 二十四番早坂義弘君。
   〔二十四番早坂義弘君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

二十四番(早坂義弘君)

 日本一の山である富士山は、我々の心のふるさとであります。その富士山は、実は活火山であり、専門家によると、噴火の可能性が十分あるといいます。現に、東京都が本年六月に修正した、この東京都地域防災計画火山編において、富士山噴火の章が新しく加えられたばかりです。
 そこで、富士山が噴火した場合の東京都における影響と対策について伺います。
 富士山の噴火の歴史を振り返ると、最近二千年の間に少なくとも七十五回の噴火が発生しています。平均すると三十年に一回以上の頻度で噴火している計算になります。後ほど述べる三百年前の一七〇七年、宝永の大噴火以来、一度も噴火していないということは、この間、十回分のマグマが地下に蓄積されている可能性が高いといえます。そして、間もなく活発な火山活動期に入るという有力な予測があります。
 災害はしばしば、我々の想定を大きく超えて発生します。その代表例が、十八世紀初頭の二つの大地震と一つの噴火であります。一九二三年、大正十二年に発生した関東大震災の一つ前の関東地震は、一七〇三年、元禄十六年に発生しました。これは元禄地震と呼ばれ、江戸時代の絶頂期ともいわれる元禄時代を終わらせることになりました。極めて甚大な被害が発生したので、元禄から宝永に改元せざるを得なかったのです。この地震は、大正十二年のときよりも、さらに一回り大きいものだったと推定をされています。
 その元禄地震からわずか四年後、一七〇七年、宝永四年に、我が国が歴史時代に体験した最大規模の地震である宝永地震が発生したのです。東海地方から紀伊半島、さらには四国にかけて大災害をもたらし、人口の少ない当時でも二万人を超える死者が発生をいたしました。今でいう東海地震、東南海地震、南海地震が同時に発生したのであります。
 さらに続いて四十九日後、富士山が大噴火を起こしました。これが宝永の大噴火です。これはたまたま偶然に地震と同じころに噴火をしたのではなく、大地震が噴火を誘発したというのが専門家の見解です。
 この宝永の大噴火では、直径四、五十センチの火山弾、焼け石が山ろくに絶え間なく降り注ぎました。その焼け石は、地表に落下すると、粉々に砕けて燃え上がり、周囲を焼き尽くしました。さらには、その焼け石が三メートル以上も降り積もり、家や畑があっという間に埋まり、川をせきとめました。つまり、噴出物による直接的な被害と、それによる飢饉の発生、そして大水害という甚大な被害をもたらしたのであります。
 一方、富士山の火口から百キロ離れている江戸にも、偏西風に乗って数センチの火山灰が降り積もりました。江戸のまちは日中でも真っ暗になったといいます。
 このように、大正十二年の関東大震災や平成七年の阪神・淡路大震災をもはるかにしのぐ超巨大地震がわずか四年の間に連続して発生したこと、そしてそれが誘引となって二カ月後に富士山が大噴火を起こし、これまた甚大な被害をもたらしたこと、地震と噴火発生のサイクルから考えると、前回から三百年が経過した今日、地震も噴火も、そろそろ起きておかしくはないと考えられます。そして、もし同じことが今日発生したら、東京は、そして日本はどうなるかと震撼せざるを得ません。
 歴史の話はこれくらいにして、今日、富士山にこれと同レベルの噴火が発生した場合の被害について考えてみます。
 一つは、交通インフラの全面麻痺であります。東名高速道路、東海道新幹線はもとより、航空機もストップとならざるを得ません。これにより、我が国の経済は大打撃に直面します。
 そのほかに、火山灰が成層圏に達した場合の地球環境への影響が考えられます。
 東京都内でも、降灰による気管支炎などの健康被害。パソコンなど精密機械への影響。火山灰が河川や下水道に流入することによって生ずるせきとめなどの影響。農地や山林など都市の緑に対する影響。そして、降り積もった膨大な量の火山灰の処理をどうするか。東京に五センチ積もっただけで、都内だけで東京ドーム七十二杯分になると想定されます。これをだれが集めて、どこに捨てるのか。その場合、民有地は自己責任か。
 こういった一つ一つの影響を指折り数えていくと、富士山噴火による火山灰の影響は、百キロ離れた東京においても、とてつもないものだということがわかります。しかも、こうした事態に対して、我々はどう対処すべきかという経験を持っていないのです。
 もちろん、これだけの事態には、ひとり東京都だけの対策で処理できるはずもなく、国を挙げて、さらには官民一体となっての対策が求められます。
 危機管理は、被害の甚大さと発生可能性との掛け算で考えるべきであります。被害の甚大さでいえば、例えば、台風や地震の被害は比較的局所に限られるのに対し、富士山の噴火は、影響する地域が極めて広く、かつ甚大な被害が予想される。しかも、航空機も含めた交通インフラの全面麻痺によって、救援の手が届きにくい状況が想定されます。
 一方、発生可能性は、今日直ちに噴火の兆候があるというわけではありませんが、いつ起きてもおかしくないとされる東海地震に誘発される可能性は否定し得ません。
 また、二〇〇〇年、平成十二年には、富士山直下で、マグマの活動を示す低周波地震が相次いで観測されました。そして、それがきっかけとなり、国が中心となっての富士山ハザードマップが作成されたのであります。
 こう考えると、富士山噴火への備えは、決して絵そらごとではなく、今すぐ起きるという切迫性こそないにせよ、知事、私たちが生きている間に起こり得るものとして、十分に検討に値するものだと考えます。
 本年六月に修正された東京都地域防災計画火山編にある内容は、あくまで総論のみであって、いかに対処するかという各論の作成が今後必要だと考えます。
 いうまでもなく、溶岩流に巻き込まれて犠牲者が発生することの想定ではなく、火山灰による甚大な社会的影響についての検討です。都内に数センチの雪が降り積もっただけで都市機能に影響があります。ましてや火山灰は微細で、どこにでも入り込み、かつ、消えてなくならないのです。
 東京都は、世界で最も多くの活火山を有する自治体です。というのも、全世界におよそ八百の活火山がありますが、そのうちの百八は我が国にあり、さらにそのうちの二十一が東京都にあるからです。そういう立場から、先駆的な火山噴火対策を講じていくのは、世界の自治体のトップリーダーである東京都の役割としてもふさわしいものと考えます。
 そこで、富士山噴火に対する知事のご見解を伺います。

〔知事石原慎太郎君登壇〕
〇知事(石原慎太郎君)

 早坂義弘議員の一般質問にお答えいたします。
 聞くだに恐ろしい質問でありますけれども、富士山の噴火についてでありますが、日本は、アラスカ、カムチャツカに発して、アリューシャンを経て日本列島で分岐して、片方はフィリピン、片方はマリアナに至る世界最大のファイアリング、環太平洋火山帯の上に位置しているわけでありまして、我々日本人は、火山列島の上に住んでいることを忘れてはならないと思います。
 万葉集にも火を噴く山と歌われておりました富士山は、おっしゃるとおり、三百年前、そう遠い昔でもありませんが、宝永年間に爆発して、いわゆる宝永山ができたわけですけれども、今日、一たび噴火すれば、広域な地域に甚大な被害をもたらすことは必定であります。
 国の富士山ハザードマップ検討委員会報告によりますと、都内では大体二センチから十センチ程度の降灰があるだろうということでありますが、これは都民生活だけでなくて、社会経済活動が停滞し、国家の機能の維持にも非常に致命的な大きな影響を与えかねません。
 実は、私、就任してすぐ起こりました三宅島の噴火のときにも、いろいろ相談をいたしました地震学の権威の人たちが一番気にしたのは、あの地震が富士山と連脈があるかないかということで、これは実際にはありませんでした。そういうふうに、専門家はやっぱりいつもこれに注目しているわけですけれども、この大自然の営みであります噴火災害には、国、自治体、関係機関のみならず、地域や都民の一人一人の役割として対策をそれぞれが講じること、その積み重ねが不可欠であると思います。
 都としては、総合的な降灰対策の策定を国に対して働きかけていくとともに、自助、共助、公助の連携のもとに、噴火による被害を最小限に抑えるために、人知を尽くして必要な取り組みを進めていきたいと思いますが、しかし、この時代、いつ起こるかわからぬ大災害にどうやって備えていいか、これはなかなか、非常に難しい問題でありますな。
 他の質問については、技監及び関係局長から答弁いたします。