2012.07.12 : 平成24年防災対策特別委員会
「新たな被害想定の分析」

早坂委員 

 今回の新たな被害想定における死者数は、最大で九千七百人、六年前の想定では六千四百人、およそ一・五倍に増加をしています。私は、この数字を見まして大変驚きました。と申しますのも、さまざまな政策を展開して、耐震化、不燃化が進んでいること、そして、個々人の住宅の更新が進んでいるから、当然この人数は減っているのかと思ったら、一・五倍にふえたということでございます。今、先生からのご教示によって、震源が浅くなったことが、その原因だろうということで理解をしたところではあります。
 一方で、この首都直下地震が起きた場合に、この程度の数字で済むのか。この九千七百人もまだかなり控え目で、実際にはもっと多くの犠牲が出るのではないかという心配、こういう指摘も一方でございます。今回のこの想定数九千七百人について、例えば、阪神・淡路大震災と比較をして、どのように考えるべきか、お考えをお聞かせください。

◯中林参考人

 阪神大震災と比較しますと、阪神大震災は六千四百三十二というような数字が出ているんですが、あれは実は九百三十人ほどの震災関連死、直後に亡くなった直接死と称するところは五千五百人です。そのうち、揺れによって亡くなった方が五千人、火災の現場から焼死体として発見された方が五百人ということです。揺れによって壊れた建物が十万五千棟ということが阪神大震災です。
 今回の東京湾北部地震のケースですと、十一万六千棟の揺れによる全壊に対して、五千六百人の揺れによる死者、十八万八千棟の焼失家屋、これに対して四千百人の死者ということで九千七百人ということです。ですから直接死としては、むしろ今回の方が阪神大震災とも適合している。火災による死者が多い分だけ、東京の震災の特徴をあらわしているかと思います。
 ただ、今回の被害想定、前回もそうですし、どこがやっているのもそうなんですが、震災関連死というのは被害想定をしておりません。したがいまして、実際に亡くなられる方というのは、災害後のデータを見ると、震災関連死を含めるんですね。東日本大震災で一万九千二百人というのも直接死です。三月末日に復興庁が出した震災関連死が千六百十八人、途中経過ですけれども、足しますと二万一千人なんですね。
 そういう意味では、震災関連死というのが東京でどれぐらい発生するか、これはもう想定のしようがないんです。いろんな死因が想定されまして、想定のしようがないのですけれども、そういう関連死を含めて考えますと、これよりも少し上回った数字に、最終的にはなるのは間違いないと。どれぐらいかといわれるとちょっと出せません。

早坂委員

 いただいた資料の八ページ、東京湾北部地震のこの震度分布を見ると、我が東京の区部東部で揺れが激しいということになります。さらにこれを繰りまして一四ページを見ると、同じく区部東部において全壊建物が多いということがよくわかります。揺れが大きければ、全壊建物が多いというのは当然のことであろうと思うんですが、さらにページを繰りまして、二六ページになりますと、火災による焼失棟数は、むしろ東部より区部、西部に大きな被害が出る。これがややちょっと理解に苦しむところなんですが、この点について、ご教示いただければと存じます。

◯中林参考人

 火災による被害というのは、まず最初、揺れた後、どれぐらい出火するかという想定をして、その後、消しとめられないものがどれぐらい燃え広がってしまうのかという想定をします。火災の出火の想定というのは揺れに比例します。揺れが強いところほど出火の確率が高くなります。
 ただし、燃え広がるかどうかというのは、揺れではなくて、建物の込みぐあい、特に木造住宅等の込みぐあいによって規定されます。その両方をあわせて考えてみますと、今回、山の手の南部地域、これはプレートが微妙に北へ向かって沈んでいるので、南側ほど震源が浅くなっているということでもあるんですけれども、震度六弱だったところが六強になって、出火件数の分布がやや高く想定されるということ。
 さらにクラスターという方式を今回とったわけですが、木造の密集した固まり、これも、もともと提案されていた東大の加藤孝明准教授によると、延焼運命共同体といういい方を彼はするんですけれども、消しとめられなければ一つの火で燃え尽きてしまう固まりです。
 これが下町よりも山の手の方が大きくなっていると。下町は、鉄道、河川、それから後藤新平の区画整理も含めて、街路がかなり密に入っているんですね。ですから同じ木造密集市街地なんですけれども、微妙に細かく分断されている。山の手側の方が分断が少ないということで、クラスターが大きくなっている。それから出火率が若干、揺れが強くなった分上がって、かつクラスターが大きいということが、山の手側で焼失棟数が大きく出てきている結果に反映しているということになるかと思います。

早坂委員

 今回の火災の想定は、毎秒八メートル、過去の気象のデータに基づいて、より実態に即した形で行ったというふうに承知をしております。となると、前回の被害想定で行った毎秒十五メートルという設定は、相当に大きかったということになるのでしょうか。
 関東大震災では、かなり強い風が吹いて火災旋風が起きました。短時間で見ると、台風のときのような極端な風速の風が吹くこともあり、このような場合には、火災が飛び火するといった事態も考えられると思います。被害想定として、今回の風速毎秒八メートルを用いた点について、お考えをお聞かせください。

◯中林参考人

 前回、風速十五メートルを使ったというのは、実は二〇〇五年に内閣府が被害想定をするときに風速十五メートルを使っていて、それと同じ条件を入れてみようと。それから従来東京都が設定してきたのは、風速六メートルということで想定をしていました。阪神のときは無風といわれているんですが、六メートルの風が吹いていたというのが神戸の気象台のデータですので、前回は三メートル、六メートル、十五メートルでやったんですね。
 今回は、じゃ実態は本当に東京で冬どれぐらいの風が吹くのかということを、六カ所の気象観測所のデータを三十年分とって調べました。一番強い風になったのが大手町の気象庁のある東京観測所でして、平均しますと、十分間の平均のことを最大風速というんですけれども、十分間で平均四・八メートルというのが東京で一番大きな風、多摩地域よりも海に近い方が風が強いんですけれども、そういう結果になりました。標準偏差という誤差の範囲ですが、それをプラス一シグマ、プラス二シグマ、かなり起きにくいところに上げてやっと七・九メートル、今回そのプラス二シグマというのを採用して八メートルということにしました。
 ちなみに、十分間の平均風速の中で、風というのは呼吸するというんですが、強くなったり弱くなったりします。ぶうっと強くなったときのことを最大瞬間風速というんですけれども、これは約倍になるといわれています。
 したがって、関東大震災の映像等を見ると、そんなに強い風が吹き続けていたわけではない。恐らく最大瞬間風速で十五メートル、ということは平均でやはり八メートルというような規模ですので、十五メートルと八メートルで非常に大きな差があるように見えますけれども、大きな差がないと。むしろ今回は、東京の気象条件に合わせて推計をしたと。しかもその中でも、めったに起きない冬の強い風の日ということを前提にしているというふうに思っています。