2005.09.28 : 平成17年_第3回定例会(第14号) 本文
「都市型水害」

二十番(早坂義弘君)

 生まれて初めて腰までつかる水害に遭いました。都市水害は、あっという間に水があふれ、そして一気に水が引くものだと、身をもって知りました。
 去る九月四日から五日未明にかけ、杉並区や中野区を中心に、一時間に一〇〇ミリを超す集中豪雨により、都民の生活に大きな被害が発生しました。まずもって、被災された皆様にお見舞いを申し上げます。
 一度床の上まで水につかると、とりわけ日本家屋では、その後の生活が極めて不愉快になります。多くの自動車が水につかって動かなくなりましたが、自然災害だから保険はききません。
 今回の集中豪雨では、床上、床下浸水を合わせて五千棟もの大きな物的被害をもたらしました。大雨による治水事業は主に河川と下水道の管轄ですが、現在の対策はいずれも時間雨量五〇ミリ想定のもので、一〇〇ミリを超える雨は想定外だったとの報道がありました。
 しかし、平成十二年に六万棟以上の浸水被害をもたらした東海豪雨では、同じように五〇ミリ想定に一〇〇ミリの雨が降り、このような大雨は想定外だったと、今回と全く同じことがいわれました。平成七年以降、全国的に目に見えて集中豪雨が増加しており、百年に一度の大雨という例えが、もはや今日では通用しなくなっています。今回の大雨では、都市部における局所的な集中被害、災害という、五年前の東海豪雨や昨年の新潟豪雨での苦い経験が全く生かされませんでした。
 そもそも、この五〇ミリ想定は、昭和四十三年、ちょうど私が生まれた年ですから、今から三十六年前に東京都中期計画で立てられた計画です。この間、都内では農地が減少し、また、道路舗装が進んだことなどによって、降った雨が大地に浸透しなくなり、短時間に集中して下水道や河川に流れ込むようになりました。
 その結果、昔と同じ雨量でも、下水道や河川に流れ込む水の量がふえ、洪水のピーク時期が早まるようになりました。そこに地球温暖化やヒートアイランドの影響によって、五〇ミリ想定の二倍の雨が降るのですから、今の計画で対応できるわけがありません。
 そこで、考えなければならないことが二つあります。一つ目は、三十六年もかかって六割しか進んでいないこの五〇ミリ対策は、一体いつ整備が完了するのか、二つ目は、想定値の二倍の一〇〇ミリの雨には現実的にどう対応していくか、この二つであります。
 もちろん、環状七号線地下の神田川調節池や和田弥生幹線に代表される下水道の雨水貯留管といった大規模インフラの整備を着実に進めていくことが、水害への最も基本的な備えであります。
 インフラの整備なくして抜本的な治水対策はあり得ません。七月の都議選で初当選をさせていただいた後、真っ先に環七の地下調節池を視察いたしました。昨日の知事のご答弁にもありましたが、私はそれを見て、想像を超えた莫大なスケールに、人間の英知の結晶だなと、本当に感激をいたしました。
 そのほかにも、じっくり時間をかけて、例えば河川はんらんの常襲地や、水はけの極端に悪いところには、建築の制限をかけ、従来どおりのままの構造の建築物は建てられないようにして、水害に強いまちづくりに仕向けていくことも有効だろうと思います。あるいは、透水性の高いアスファルトや雨水浸透ますへの切りかえも大切です。これまで行ってきた治水整備事業を今後さらにしっかりと行うことの重要性は否定いたしません。
 しかしながら、先ほど申し上げたとおり、五〇ミリ想定のインフラ整備ですら、現実にはまだ六割の整備でしかありません。環七の地下調節池は、一期工事と二期工事を合わせると、二十一年間、一千億円を超える時間とお金をかけています。それをもってしても、今回のような大きな被害が出てしまうのです。
 河川そのものの整備でいえば、堤防を高くする、厚くする、川幅を広げる、川底を掘るといったことに、今度は一〇〇ミリを想定して、また莫大な時間とお金をかけて水を封じ込めようとすることには、もはや限界があると私は感じます。都市の景観や、自然との共生という新しい価値観もありますから、河川の整備にはとてつもないエネルギーが必要です。下水道の整備も同じです。
 そこで、今必要なのは、被害を一〇〇%抑え込もうとする努力ではなく、被害を我々の社会が許容できる範囲にまで小さくしていく努力ではないでしょうか。
 今後も現実に一〇〇ミリの大雨が予想されるならば、ある程度の被害は容認しながら、都民の生活への直接的な被害を最小限に抑えていく、つまり、被害そのものをコントロールしていく、この努力が今必要なのだと私は考えます。
 具体的には、公園や学校など、ある程度の面積を持った公的施設やゴルフの練習場などにあふれた水を誘導して、そこに貯水機能を持たせるのです。私のイメージでは、公園に貯水池をつくるのではなく、その公園全体を水没させてしまうのです。もちろん、それですべてが解決するわけではありませんが、被害を受ける場所や地域を限定していくことで、都市の機能がこうむるダメージをコントロールしていくことも、地下調節池のような大規模インフラの整備と並行で考えていくべきだと私は思います。
 このままでは、被害を予想しつつも、現実的な意味で、何ら有効な対策を講じていなかったという、アメリカ・ルイジアナでのハリケーン、カトリーナの二の舞になりかねません。
 そこで、都民の生活に直接影響を及ぼす洪水被害を最小限に抑えるために、川沿いの公的施設などでしっかりと洪水を受けとめるといった、思い切った発想の転換が必要だと私は考えますが、このような考え方に対しての知事の率直なご感想をお伺いいたします。
 私の提案は、下水道や河川だけで水を抑え込むのでなく、流域全体で洪水を受けとめ、被害をコントロールしようという、まさに総合治水に合致した対策であると考えますが、その実現可能性について、ご見解を伺います。
 同時に、治水事業の基礎である大規模インフラ整備、すなわち神田川、善福寺川、妙正寺川における五〇ミリ対応未整備区間の早期整備に関して、昨日の我が党代表質問に、河川激甚災害対策特別緊急事業の実施に向け、国と調整を進めているとの建設局からのご答弁をいただきました。この激特事業は、事業期間がおおむね五年とされていますので、その後もペースを落とすことなく整備を行うものと私は考えますが、ご見解を伺います。
 また下水道では、和田弥生幹線の関連施設を早期に整備し、貯留量の増強を図ることが必要だと考えますが、ご見解を伺います。
 今回の豪雨災害のさなか、直ちに我が党の野村幹事長、新藤政調会長とともに現場を視察いたしました。そこで強く感じたのは、地下室の被害でありました。一方向しかない階段から水が一気に襲ってくる。その押し寄せてくる水の圧力でドアがあかなくなる。ドアがあいたと思ったら、あっという間に天井まで水につかる。人命に被害がなかったことの方が不思議でした。
 近年、一般のマンションや一軒家でも、地下室や半地下の構造を持つところがふえています。そこで、新築、既存の地下室あるいは半地下構造の建築物に対して浸水対策を進め、地下空間の安全性を今後さらに高めていく必要があると思います。ご見解を伺います。
 また、一定規模の人々が利用する地下空間に関しては、行政と施設管理者との連携により、避難や排水などの体制を整備する必要があると思います。ご見解を伺います。
 市民の生命と財産を守ることが、何よりも大切な政治の役割であります。歴史をひもとけば、水の被害から市民の安全を守ってきたことが我が国の政の歴史であり、その意味でまさに防災は政治の原点です。
 災害というと地震がまず思い浮かびますが、戦後の数字で見ると、水害による犠牲者の方が圧倒的に多いのです。
 来るべき東京オリンピックでは、ぜひともメーンスタジアムを防災基地としての機能を兼ね備えたものにしていただきますよう今からお願いをしておき、質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)

◯知事(石原慎太郎君) 

 早坂義弘議員の一般質問にお答えいたします。
 洪水対策についてでありますが、きのうもお答えいたしましたけれども、治水は政治の根幹の一つでありますが、しかし、自然現象というのは私たちの人知を超えるものがありまして、このところの気象異変で、集中豪雨、雨量そのものが非常に一時ふえておりますけれども、それはそれなりにして、東京は、環状七号の地下の貯水池をごらんいただいたようですけれども、あれだけ画期的な災害対策をしている都市というのは、世界じゅう余りないと思いますね、それでもなお及ばぬということが事態として起こるわけですが。
 ご指摘の、川沿いの公的施設などで洪水を受けとめるといった提案というのは、これは、場所によって問題がありますね。例えば学校に、学校のグラウンドを貯水池にして一回水を入れちゃったら、それはもう水浸しになって、それを修復するのにどれぐらいかかるか。例えば教室までが水浸しになると、仄聞しますと、そういったものを消毒すると、消毒のにおいが二週間、三週間消えないそうでして、子どもの健康にそれがどういう影響があるか、それはまた……。
 今も新しい国際競技場云々とありましたけど、せっかくつくった競技場を貯水池にするわけにも、これ、いかないんでね。
 私は、それも一つのアイデアと思ってこれから大いに研究させますが、その地域によるでしょうけど、やっぱりすべてが舗装されて、東京の主な部分がもう吸水性がなくなったということに問題があると思いますね。ですから、全般的に舗装というものの吸水性というものをやっぱり取り戻すように、独特のペーブメントというものを考えて、コストがかかってもやっぱりそれを普及していくことが、東京全般で、どこに集中豪雨が来るかわかりませんが、水害を防ぐ最も効率のいい対処だと私は思います。
 いずれにしろ、ご提案ありましたけど、可能性について研究いたしますが、素人の考えの域を出ませんけれども、いずれにしろ、東京の舗装というものがもう少し吸水性を持つということが、私は東京全体にとってセコンドベストの策ではないかと思っております。

◯都市整備局長(梶山修君) 

 まず、川沿いの公的施設などで洪水を受けとめる方策についてでございますが、集中豪雨による都市型水害に対応するには、河川や下水道の整備とともに、流域対策を含めた総合的な治水対策が必要でございます。
 都市化の進んだ地域で、ご提案の趣旨を実現するためには、あふれた水の受け入れ対象となる施設の有無、受け入れた場合の効果と安全性の検証が必要なこと、学校や公園などを治水目的として利用することに対する地域の合意が必要なこと、さらには、受け入れる土地所有者の理解と協力及び損害補償などが必要なことなど、解決すべき多くの課題がございます。
 先ほど知事がお話ししたとおり、今後、こうした課題の対応策について調査研究してまいります。
 次に、地下室等における浸水対策についてでございますが、集中豪雨による河川のはんらんから都民の生命、財産を守るためには、河川の整備とともに、地下空間における浸水対策が重要でございます。
 都はこれまで、地下空間への浸水を防ぐための防水板の設置、避難経路の確保など、国が定めたガイドラインの普及啓発に努めてまいりました。
 今後、建築関係団体を通じその活用を図るとともに、都の主催する講習会の実施、ホームページへの登載等、新たな取り組みにより、既存建築物の所有者も含めて、積極的にガイドラインの周知徹底を図ってまいります。
 また、浸水が予想される地域につきましては、区市町村と連携し、地区計画を活用した地下利用規制の方策を検討するなど、浸水対策の一層の促進に努めてまいります。

◯建設局長(岩永勉君) 

 神田川などの今後の整備についてでありますが、神田川、善福寺川、妙正寺川につきましては、これまで一時間五〇ミリに対応する護岸の整備を進めるとともに、分水路や調節池の設置など、さまざまな手法を組み合わせ、治水対策に取り組んでまいりました。
 お話の妙正寺川や善福寺川の未整備区間につきましては、緊急に整備できるよう、河川激甚災害対策特別緊急事業の実施に向け、現在国と調整を進めております。
 今後とも、これら神田川流域の水害軽減に向け、未整備区間の整備を着実に進めてまいります。

◯下水道局長(前田正博君) 

 和田弥生幹線関連施設の貯留量の増強についてでございますが、和田弥生幹線は、杉並区、中野区、新宿区の浸水被害を軽減することを目的としました雨水貯留管でございます。
 この幹線は、関連施設を含め、総延長約七・五キロメートル、貯留容量十五万立方メートルに及ぶもので、平成九年度より既に一部貯留を開始しております。
 現在、平成十九年度末の完成を目指し、杉並区堀ノ内、中野区南台地区などにおいて、幹線に雨水を取り込む地区を拡大するための整備を鋭意進めているところでございます。
 なお、整備が終わり、取水が可能となった箇所から順次雨水を取り込み、浸水被害の早期軽減を図ってまいります。

◯総務局長(高橋功君) 

 まず、地下空間の水害対策についてでございますが、高度に土地利用が進んでいる東京では、地下街などの地下空間の水害対策は極めて重要でございます。このため、都は地域防災計画におきまして、地下空間の利用者の避難誘導に当たる施設管理者の責務を定めるとともに、降雨情報などの提供を行っております。
 今後、地域防災計画を見直しを行いまして、地下空間における災害時の安全を確保するため、区市町村が果たすべき役割と、施設管理者による避難計画の作成などについて定め、万全を期してまいります。