2009.10.20 : 平成21年厚生委員会
「周産期医療体制」

早坂委員 

 昨年発生した総合周産期母子医療センターである都立墨東病院や杏林大学病院での母体搬送受け入れ困難な事案からおよそ一年が経過をいたしました。墨東病院での事案を大まかに振り返ると、平成二十年十月に都内で脳内出血を起こした妊婦が八つの医療機関で受け入れられず、最終的に墨東病院に収容され出産したものの、三日後に亡くなったというものであります。
 これらの事案によって、慢性化している産科医、救急医不足や救急医療体制のあり方など、多くの課題が明らかになりました。
 東京都は、この間、周産期医療協議会や猪瀬副知事をトップとするプロジェクトチームなどで多角的に対応策の検討を進めてきたと承知しております。その一つが、いわゆるスーパー総合周産期センターであります。これは都内十カ所の総合周産期母子医療センターのうち、昭和大学病院、日赤医療センター、日大板橋病院の三つをスーパー総合周産期センターに指定し、重症な疾患により緊急に母体救命処置が必要な妊産婦を必ず受け入れるというものであります。このほかにも、東京消防庁救急司令室への周産期搬送コーディネーターの配置など、さまざまな改善策が実行に移されています。
 こうした東京都全体の制度とは別に、都立病院においても、昨年十月の東京緊急対策Ⅱの中で、さまざまな施策を打ち出しております。
 そこでまず、昨年の緊急対策Ⅱに掲げられた都立病院での新規施策の内容とその実施状況について伺います。

〇黒田経営企画部長 

 緊急対策Ⅱに掲げられました都立病院での新規施策の内容と実施状況についてでございますが、まず墨東病院におきまして、地元の医師会の協力を得まして、当直の応援に入ってもらう産科診療協力医師登録制度を本年三月から実施しておりまして、当初は三人目の研修当直から入っていたものが、現在では、二人目の正規当直を担うなど、墨東病院の当直体制を支えていただいているものでございます。
 また、墨東病院におきましては、本年一月から、夜間帯の責任者を助産師等コーディネーターと位置づけまして、決まった時間に院内NICUの情報を収集するとともに、ハイリスク患者の受け入れ調整を行うことといたしました。さらに、広尾、大塚、墨東、府中の各病院の産科に、医師の事務作業補助する専任のクラークを、本年一月以降、準備の整った病院から順次二名ずつ配置しておりまして、産科医師が診療業務に専念できる体制を整えたところでございます。
 加えまして、院内保育の対象年齢につきまして、これまで三歳までが対象だったものを未就学児まで引き上げる取り組みを、本年四月から大塚病院と墨東病院で実施するなど、女性医師の多い産科医師の勤務環境改善に努めているところでございます。

早坂委員

 昨年の事案以来、都立病院においても直ちに緊急対策が打ち出され、それが着実に実行されているものと理解をいたしました。周産期医療を担う各都立病院がおのおのの役割を十分に果たしていくためには、根本的には常勤医師数を確保して十分な体制を整えることが必要であります。しかしながら、全国的に産科医の絶対数が不足しているという限られた条件の中で、さまざまな角度から取り組みを進めた緊急対策は意味のあるものだと思います。
 特に、墨東病院で実施されている産科診療協力医師登録制度は、地域との連携体制を強化し、役割分担をしながら、限られた医療資源を有効に活用する観点から評価すべきものであります。
 今後取り組むエリアを、現在の三区からさらに拡充していくべきと考えます。ご見解を伺います。

〇黒田経営企画部長 

産科診療協力医師登録制度の拡充についてでございますが、墨東病院では、この産科診療協力医師登録制度を創設しましたことで、現在、墨田、江東、江戸川の三つの医師会の協力のもと、六名の先生に当直の応援に入っていただいております。
 今後は、大塚病院を中心に、地元の医師会との間で具体的な連携を検討していくこととしておりまして、昨日、東京都医師会の主催で、第一回目の検討会を開催したところでございます。
 今後とも、それぞれの地域の実情に応じました取り組みを関係者とともに推進してまいります。

早坂委員 

 都立病院として自前で体制を整えていくことはもちろん大切でありますが、地域の診療機関との役割分担を進めていくことによって、今後も積極的に取り組んでいただきたいと思います。
 さて、昨年起きた母体搬送事案を通じて、産科医の絶対数が足りない状況が明らかになりましたが、母体搬送を十分に受け入れられない理由としてNICUの満床が多く掲げられていました。NICUの整備については、国が出生一万人に対し二十五床から三十床を目標とする方針を出すとも聞いておりますが、現在東京都は出生一万人に対し二十一床であり、東京都全体としても、今後さらなる整備に取り組んでいかなければならない状況にあります。
 その中で、都立病院は、昨年来、NICUの増強など、どのように周産期医療体制を強化してきたのか、また今後どのように強化していくのか伺います。

〇黒田経営企画部長 

 周産期医療体制の強化についてでございますが、本年一月に墨東病院のNICUを三床増床いたしまして十五床といたしました。
 また、大塚病院では、本年七月にNICUを三床増床しまして十五床とするとともに、この十月から、母体、胎児を集中的に管理いたしますM?FICUを六床設置いたしまして、都立病院では、墨東病院に次ぐ二つ目の総合周産期母子医療センターに指定されたところでございます。来年の三月には、多摩総合医療センターと小児総合医療センターを開設しまして、両病院が一体となりまして、M?FICU九床、NICU二十四床を備える総合周産期母子医療センターを運営していくこととしております。

早坂委員 

 昨年からの取り組みで、都立病院としてはNICUも増強され、周産期母子医療センターでは、今月から大塚病院が地域から総合へと機能強化されました。そして、来年三月に多摩総合医療センターと小児総合医療センターが一体となってNICUを二十四床備える、都内でも最大級の総合周産期母子医療センターがスタートするなど、周産期医療体制の強化に向けた積極的な取り組みを行っているものと理解をしております。この新しいセンターについては、後ほど触れたいと思います。
 さて、都内でもまだまだNICUは不足しており、ハード整備を進めていくことは重要であります。他方、医療的な理由ではなく、NICUに長期間入院している子どもたちをいかに外に出していくかという課題もあります。ドレナージの議論であります。
 このたび、都立墨東病院では、福祉保健局が実施するNICUからの退院を支援するモデル事業を受託していく計画があると承知をしております。墨東病院では、モデル事業として具体的にどのような取り組みを進めていくのか伺います。

〇黒田経営企画部長 

 墨東病院におけますモデル事業の取り組みについてでございますが、本モデル事業の具体的な施行方法を検討するために、墨東病院を初め、地域の小児科医や訪問看護施設、保健所や行政の代表等から構成される分科会が、本年八月に立ち上げられたところでございます。
 今年度は、この分科会の中で、NICUから在宅への移行に向けた対応方法や在宅生活の支援策等を具体的に検討することとしております。その上で、来年度から二カ年にわたりましてモデル事業を実施しまして、同時に検証を行っていくこととしております。事業主体であります福祉保健局と密接な連携のもと、円滑な実施に努めてまいります。

早坂委員 

 ぜひ、ほかの周産期センターにもこのモデル事業の成果が還元できるよう、しっかりと取り組んでいただきたいと思います。
 ところで、多摩地域の周産期医療については、総合周産期医療センターが、これまで杏林大学病院の一カ所のみであるなど、区部の九カ所と比較して整備がおくれているとの指摘がありました。また、小児救急医療についても、小児科の医師数の減少と、それに伴う小児医療施設の減少が相次いでおり、区部と比較した小児医療資源の不足には早急な対策が必要であります。
 こうした中、いよいよ平成二十二年三月に小児総合医療センターが開設され、多摩地域の小児医療の水準が向上されることが期待されます。その意義を改めて伺います。

〇斎藤経営戦略・再編整備担当部長

 医師等の不足、特に小児科医師の不足は極めて深刻な状況にございまして、医療を取り巻く環境が厳しい現状におきましては、初期、二次、三次の各医療施設の役割発揮と互いの連携によりまして、限られた医療資源を最大限有効活用することが極めて重要となっております。
 こうした考えから、都は小児病院等を移転統合し、小児総合医療センターを開設することにより、心から体に至る高度専門的な医療を提供し、多摩地域の医療水準の向上を図ることといたしました。
 小児総合医療センターでは、多摩総合医療センターと一体となって都内最大の総合周産期母子医療センターを整備いたしますほか、日本で初めての小児専門のERを設置し、多発外傷など重篤な外傷にも対応できる、高度で専門的な小児三次救急を行ってまいります。
 さらに、これまでの小児三病院の診療科に加えまして、脳神経外科、臓器移植科、眼科、耳鼻咽喉科など、新たに招いた小児の専門医による専門診療を行いますとともに、小児科がん医療、小児腎不全医療、アレルギー医療など、これまで以上に高度で専門的な医療を提供してまいります。
 こうした広範な高度専門医療の提供を通じまして、都における小児医療の拠点としてその役割を十分に果たしてまいります。

早坂委員 

 周産期医療を例にとっても、これまで清瀬及び八王子小児病院には産科がないため、母体搬送の受け入れができないことが最大の課題となっておりました。それが、新しいセンターの整備により、多摩総合医療センターと一体となって母体搬送の受け入れが可能となります。これは、多摩地域全体の周産期医療の水準向上に資するものであり、新しいセンターには小児医療の多くの分野で多摩の医療を牽引する役割を果たしてもらいたいと思います。
 一方、小児医療が転出する地域の小児医療体制でありますが、これまで小児病院は、本来、高度専門病院としての役割を期待されていながら、実態としては、その多くを症状が軽くても見てくれる地域医療の役割を果たしてまいりました。医療人材や医療資源が不足している中で、今後も、地域の医療水準を維持していくためには、一次、二次、三次それぞれの医療機関の役割分担と互いの連携で、全体としての総合力を高めていくことが不可欠であります。新しいセンターを多摩の小児医療を支える一大拠点として、その三次救急医療機関としての役割を十分に発揮させていく観点からも、地域医療との連携の仕組みづくりが重要であります。
 そこで、地域の小児医療を担う機関と小児総合医療センターとのネットワークづくりなど、今後の医療連携について伺います。

〇斎藤経営戦略・再編整備担当部長

 ご指摘のとおり、限られた医療資源を十分に活用して多摩地域全体の小児医療水準を向上させるためには、医療機関の連携が非常に重要でございます。
 このため、北多摩北部医療圏では、高度専門医療を担う小児総合医療センターと地域の中核である多摩北部医療センター、また、多摩北部医療センターと地域の診療所等がそれぞれ小児医療のネットワークづくりを進めていくことといたしまして、現在、その具体的な方策について検討を行っております。
 こうした取り組みによりまして、多摩地域全体の小児医療の一層の充実に関係局とともに全力で取り組んでまいります。

早坂委員

 小児医療の充実は、都民が切望している重要施策であります。ぜひ都民の期待にこたえるべく、限られた医療資源を最大限活用し、重層的な連携体制の構築に向けて準備を着実に行っていただくようお願いをいたします。