2015.09.30 : 平成27年第3回定例会(第13号)本文
「AEDの実効的な活用」

◯議長(高島なおき君) 昨日に引き続き質問を行います。
 七十二番早坂義弘君。
   〔七十二番早坂義弘君登壇〕
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七十二番(早坂義弘君) 質問に先立ち、大きな被害をもたらした関東・東北豪雨の被災者の皆様に、心からお見舞いを申し上げます。
 被災地である茨城県常総市を訪れ感じたのは、防災とは、突き詰めていえば、命を守ることだということです。また、被害が起きた後の復旧ではなく、そもそも被害が起きる前に、その被害を防ぐ、あるいは被害を減らす努力だともいえます。それは何も自然災害だけが対象ではありません。
 そこで、本日は、AEDについてお伺いいたします。
 AEDは、事前にしっかりと準備をしておくことで、大切な命が守れることになるからです。AEDはとまった心臓に対して電気ショックを与える医療用機器です。この都庁内にはおよそ百台、また、駅や集会施設など、人が多く集まるところに設置されています。
 ところが、総務省消防庁の調べによると、全国で一般市民に目撃された心臓停止のうち、実際にAEDが使用されたのは、わずか三・六%、つまり、AEDは必要な場面で全くといっていいほど使われていません。その理由について本日は考えたいと思います。
 今、私は目撃された心臓停止と申し上げました。実はここが大きなポイントで、二つの要素があります。一つは目撃された時間、もう一つは目撃した人という要素です。
 まず、時間です。心臓がとまると、その蘇生率は一分ごとに一〇%ずつダウンします。つまり十分経過すると蘇生率は零%、心臓がとまってから、たった十分後にはもう助からないのです。したがって、心臓停止の人を救うには、倒れたその瞬間から動き出さないと間に合いません。目撃された心臓停止ということの意味の一つは、その切迫性を示すものです。
 東京消防庁の調べによると、救急隊の現場到着には平均七分五十四秒、つまり、八分近くかかっています。人が心臓停止で倒れた瞬間に一一九番通報がなされるわけではなく、どうした、どうしたと状況を見ているうちに、すぐ一分や二分かかってしまうことを考えると、救急車の到着を待っていては、もはや命は助かりません。
 倒れた人の目の前にいる人、バイスタンダーが行う心臓マッサージとAEDの処置が、命を救うための決定的な役割を果たすことになります。
 しかも、心臓停止の後遺症を考えれば、十分以内ならぎりぎりセーフということはなく、十秒でも二十秒でも早くAEDを処置すればするほど、命が助かる可能性がふえ、また、重篤な後遺症のリスクが減ることになります。まさに一分一秒を争うのです。
 次に、人です。目撃された心臓停止ということの意味のもう一つは、倒れた人のすぐそばに、それを目撃した人、バイスタンダーがいるということを示します。つまり、バイスタンダーがいれば、直ちに心臓マッサージとAEDの処置が行われる可能性が高まります。どんなに早く目撃されても、ただ取り囲むだけで何もしなければ、あっという間に十分が過ぎてしまいます。
 私は、目撃した人と申し上げましたが、正しくは目撃して救命措置を行う人と申し上げるべきであります。
 では、心臓停止が目撃される場面には、実際にはどういう場面が考えられるでしょうか。最も象徴的かつ重要な場面はスポーツと学校です。どちらにも目撃された時間、そして目撃して救命措置を行う人の二つの要素がそろうからです。
 まず、スポーツについて考えます。
 当然のことながら、スポーツは心臓にそれなりの負担がかかります。また、ボールが胸に強く当たったりすることで、心臓がとまることもあります。スポーツ中には心臓停止のリスクが高まります。実際、これまで実施された東京マラソンでは、競技中に七人のランナーに心臓停止が発生しました。しかし、毎回心臓停止が発生するという前提でAEDを万全に整えていたおかげで、七人とも命が助かっています。お笑いタレントの松村邦洋さんもその一人です。
 しかし、東京マラソンは、スポーツにおいて唯一といってもいいくらいに例外的な事例であり、スポーツ中の心臓停止による死亡事故は数え切れません。にもかかわらず、私が出席した数多くのスポーツ大会の開会式で、主催者から、万一の場合、AEDはあそこにありますと、参加者の注意を促す呼びかけをたったの一度も聞いたことがありません。ちょうどホテルに泊まる際に、非常口はあそこですと指示されるのと同じように、わずか五秒で済むことなのにもかかわらずです。
 スポーツの場面では、日本体育協会主催のスポーツ指導者講習会において、熱心にAED講習が行われています。しかし、乱暴にいえば、それでおしまいになっています。いうまでもなく、限られた数のスポーツ指導者が知っていればそれでよしということでは断じてありません。万一の場合に、AEDの必要性がとっさに頭に浮かび、かつそれをとりに行って実際に使用するのは、偶然そこに居合わせたバイスタンダーだからです。
 究極的には、都内で行われるあらゆるレベルのスポーツ大会で、参加した選手一人一人の脳裏にまで、AEDがどこにあるのかなと、その存在がちらりと浮かぶようになってこそ、初めてAEDが活用されるようになるのだと思います。
 次に、学校での場面を考えます。
 学校も、目撃された時間、そして目撃して救命措置を行う人の二つの要素がそろい、命を救える可能性が高い場面です。今回の一般質問に当たり、事前に調べたところ、都内のほぼ全ての学校でAEDの設置が済んでいます。ですが、AEDの設置が済んでいるということと、そのAEDが使われることには、大きな乖離があります。
 さいたま市立小学校での事例ですが、小学六年の桐田明日香さんが駅伝の練習中に突然倒れ、死亡した事故がありました。その学校に設置されていたAEDが使われることはありませんでした。亡くなったご本人やそのご家族の気持ちは、察するに余りあります。加えて、そこに設置されていたAEDを使っていれば、もしかしたら彼女の命を救えたかもしれないという自責の念にとらわれているであろう同級生や教員の皆さんのお気持ちにも思いをいたさずにはいられません。折しも、きょう九月三十日は桐田明日香さんの四回目の命日に当たります。
 この桐田明日香さんの事故は、講習を受けた経験がある教員が何人もいたにもかかわらず、そもそもAEDを使うことに意識が回らなかったことが問題でした。では、今後意識啓発をして、学校で人が倒れたら、すぐにAEDを持ってこようと思ったとしても、実際にAEDを使うまでには幾つものハードルがあると考えます。
 例えば、AEDが学校のどこにあるか、初めて来た人にもすぐわかるようになっているか。そして、その設置場所は、土曜、日曜の課外活動の際にも鍵がかかっていない場所にあるかということなど、数え上げれば幾つもあります。
 いざというときにAEDが直ちに使用されるためには、相当リアリティーのある講習が必要です。同時に、第一発見者となり得る児童生徒へのAED講習も欠かせません。
 AEDの使用が市民に開放されたのは、平成十六年、二〇〇四年のことです。以来、我が国には、AEDの法的な設置義務が課されていないにもかかわらず、この十一年間に全国で何と五十万台のAEDが設置されるようになりました。
 現在、主な駅や空港にAEDが設置されているのは心強いことです。また、余り知られていないことですが、都内全ての交番にAEDが設置されています。最近では、東京都トラック協会が、協会の社会貢献事業としてトラックにAEDを積むことを検討中です。こうした命を守る取り組みが、誰かに義務づけられたものではなく、自主的な取り組みとして進んでいることは、世界に誇るべきことだと思います。
 ちなみに、この議会棟にも九台AEDが設置されています。どこにあるか、皆さんご存じでしょうか。
 さて、アメリカでAEDが普及するようになったのは、任期満了目前となったクリントン大統領が、二〇〇〇年に最後の置き土産として、全米に向けたラジオ放送で、あらゆる公共施設にAEDを配置すると大演説をぶったことがきっかけです。
 知事がここで全東京都民に向けて、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックまでに、スポーツと学校における突然死をゼロにするとの大目標をお示しになり、それが実現されれば、これにまさるオリンピックのレガシーはありません。
 幸いにも我が東京都には、東京マラソンでの突然死ゼロというすばらしい実績があります。その成功実績をモデルに、それをスポーツ全体と全ての学校に広める絶好のチャンスは、オリンピックを控えた、まさに今であり、東京発の比類なきレガシーになると確信します。
 そこで知事に、スポーツにおけるAEDの実効的な活用について伺います。
 また、学校におけるAEDの実効的な活用についてもご見解を伺います。
   〔知事舛添要一君登壇〕
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◯知事(舛添要一君) 早坂義弘議員の一般質問にお答えいたします。
 スポーツにおけるAEDの実効的な活用についてでございますけれども、二〇二〇年オリンピック・パラリンピック大会に向けて、より多くの都民にスポーツの魅力を知ってもらい、親しんでもらうとともに、安心してスポーツに取り組める環境を整えていくことは大変重要でございます。
 スポーツは、けがや事故などと隣り合わせの面もありまして、中でも、運動中の突然の心停止は、命を奪いかねない危険性を持っております。
 例えば、これまで九回実施している東京マラソンでは、議員ご指摘のとおり、心停止のケースが七件ありましたけれども、AEDを装備しました自転車の救護チームなどの迅速な対応によりまして、全ての命を救ってまいりました。
 現在、都内のスポーツ施設等では、AEDの設置が進んでおりますが、肝心なことは、おっしゃったように、いざというときに誰もが命を救う行動を速やかに起こせることであります。
 そのため、都は、スポーツ団体や区市町村などと連携しながら、AEDの設置場所の周知を図るとともに、都民、指導者向け講習会を充実させることなどによりまして、スポーツシーンにおいてAEDが一層活用される環境を整えてまいります。
 二〇二〇年大会を契機に、スポーツにおける心停止による突然死ゼロを目指して、都民が生涯を通じて安心してスポーツを楽しみ、健康で過ごせる社会の実現に全力で取り組んでまいります。
 そのほかの質問につきましては、教育長及び関係局長が答弁をいたします。
   〔教育長中井敬三君登壇〕
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◯教育長(中井敬三君) 公立学校でのAEDの活用促進についてでございますが、都においては、全ての公立学校でAEDを設置しており、都教育委員会では、都立学校に対し、誰もがわかる昇降口や体育館付近に設置するよう指示しております。
 また、公立学校の教職員に対するAEDを使用した救命講習を実施するとともに、公立学校の全児童生徒に補助教材を配布し、AEDの使い方を指導しております。
 今後、二〇二〇年大会の機運が高まり、スポーツ人口が増加することで、学校内でのAEDの重要性がさらに増すことが予想されます。万一の際、迅速な行動が実際に起こせるよう、救命講習のさらなる拡大や利用者へのわかりやすい案内の設置などについて、都立学校や区市町村教育委員会への一層の指導、働きかけを行ってまいります。
   〔生活文化局長多羅尾光睦君登壇〕
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◯生活文化局長(多羅尾光睦君) 私立学校におけるAEDの設置等についてですが、生徒等の非常時の安全を確保するため、AEDの設置及びその有効活用は重要でございます。
 都では、私立学校における適切で十分な設置を進めるため、今年度より購入等に対する助成を開始いたしました。
 また、必要なときに確実に使用できるよう、実技講習会などを実施した私立学校に補助を行うとともに、東京都私学財団において毎年教職員向けの研修会を開催しております。あわせて都は、適切な機器の保守点検等について、全私立学校に周知を図っております。
 ご提案の趣旨を踏まえ、AEDの設置場所への誘導表示や児童生徒を対象とする実技講習会の実施の呼びかけも含め、今後もさまざまな機会を捉え、私立学校における取り組みを支援してまいります。
   〔港湾局長武市敬君登壇〕