2009.11.16 :平成20年度公営企業会計決算特別委員会
「都営地下鉄の安全管理(その2)」

〇樺山委員長

 大津委員の発言は終わりました。
 次に、早坂副委員長の発言を許します。

早坂委員 

 それでは、都議会自民党を代表して総括質疑をさせていただきます。
 平成二十年度普通会計決算の実質収支は、ほぼ収支均衡となっています。しかしながら、平成二十一年度の税収は、二十年度決算比で、およそ一兆円もの減少が見込まれるなど、都財政は決して盤石なものではなく、社会状況のいかなる変化にも柔軟に対応できるような財政基盤を一層確立していく必要があります。
 ところで、公営企業会計は、東京都予算総額の二割近くを占めており、出資や補助、貸し付けなど、他会計とも分かちがたい関係にあり、公営企業の経営改革なくしては、将来にわたる健全な財政は実現しないといっても過言ではありません。公営企業は、常に企業としての経済性を最大限発揮するとともに、本来目的である公共の福祉を増進するという基本原則に立って、都民に信頼されるサービスを提供していく必要があります。このような観点から質問をいたします。
 最初に、交通局について伺います。
 都営交通の創立は明治四十四年、西暦一九一一年であり、再来年には創立百周年を迎えます。この間、関東大震災、戦災などの苦難を乗り越え、復興を果たした都営交通を待ち受けていたものは、モータリゼーションに代表される都市の変容であり、それがもたらした財政危機でありました。
 昭和三十五年度から継続的な赤字へと転落した交通局財政は、その後、累積赤字が雪だるま式に増加していったのであります。都営交通百年の歴史の後半は、財政再建の歴史といっても過言ではありません。再建の歴史の中では、都電やトロリーバスを廃止し、事業の中心を都バスへ、さらには地下鉄へとシフトさせていきましたが、地下鉄は建設費の負担が非常に重く、国鉄最後の年でもある昭和六十一年度の地下鉄の決算では、経常損益で二百六十八億円の赤字で、資金不足が一千四百二十六億円という破綻寸前の状況にまで陥りました。その後も厳しい経営状況が続き、大江戸線が開業した平成十二年度には、三百五十二億円の赤字、三百四十六億円の資金不足でありました。
 しかし、平成二十年度の地下鉄事業の決算を見ますと、我が党のきたしろ議員の分科会質疑にもあったように、十八年度に経常損益で三十一億円の黒字となって以来、年々黒字額が拡大し、経常損益で約百四十億円の黒字となり、資金残も三百五十五億円となりました。まさしく隔世の感であり、これまでの努力が結実したものだと考えます。
 しかし、財政の面の改善だけをもって、経営基盤が盤石であるとはいえません。交通事業者が最も重きを置くべき価値観は、いうまでもなく、安全・安心の確保であります。安全の確立こそが、社会からの信用を得る交通事業者の経営の根本であります。
 そこで、まず、交通局は、地下鉄事業における安全対策について、どのように取り組んできたのか、伺います。

〇金子交通局長

 交通事業者にとって、安全・安心の確保は最重要課題であり、ご指摘のように経営の根本であります。このため交通局では、これまで、ハード、ソフトの両面から、都営地下鉄の安全を確かなものにするためのさまざまな対策を講じてまいりました。
 ハード面の対策として、平成二十年度は、浅草線の改良型ATSへの更新や運転士異常時列車停止装置の改良を進めているほか、駅の火災対策の強化を目指した排煙設備の整備などを行っております。
 今後は、お客様の転落事故防止のため、平成二十五年度までに大江戸線のすべての駅にホームさくを設置してまいります。さらに、安全運行の確保と事故が発生した際の迅速な復旧を図るため、運転、電力、保守など、各部門の司令機能を統合した総合指令所を開設することにしております。
 次に、ソフト面では、JR福知山線の脱線事故を契機に導入された運輸安全マネジメント制度を適切に運用し、安全方針に基づく安全重点施策を実施するとともに、内部監査などを実施し、安全管理体制の水準向上にも努めております。
 今後とも、安全最優先の都営交通を目指し、安全対策のさらなる充実に向けて取り組んでまいります。

早坂委員

 ハード、ソフト両面で多岐にわたり安全対策に取り組んできたということであります。
 地下鉄事業には、多額の累積欠損金や長期債務があることは十分承知していますが、連続して黒字を出せるようになった現在、より高いレベルでの安全対策に取り組むべきであります。
 同時に、こうしたさまざまな安全対策を運用するのは、最終的には、現場で運行に携わる人であります。我が国の鉄道の安全性と正確さは、映画化もされた小説「鉄道員(ぽっぽや)」のような安全に対する強い使命感、また、高い技術力により支えられてきました。しかし、現在では、人々の人生観も多様化し、日本人の美徳ともいうべきまじめさや一生懸命さというものも、ややもすると軽視されがちであります。さらに、今後、これまで安全を支えてきた団塊の世代、特に技術者の方が多く退職時期を迎え、人材の育成は最も重要な課題です。
 そこで、都営地下鉄の安全を支える人材の育成について、どのように取り組んできたのか、伺います。

〇金子交通局長

 鉄道の安全は、仕事に従事する一人一人が、みずからの使命を全うすることによって支えられております。しかし、鉄道の仕事の多くは、日々地道な作業の連続であり、ややもすればマンネリ化し、事故につながりかねない危険性をはらんでおります。
 そのため、交通局では、施設、設備面での対策だけではなく、一定の経験年数を経た乗務員全員を対象に実施しております研修の中で、改めて指差確認喚呼など基本動作、基本作業の徹底を図るほか、幹部が現場に赴き、直接職員と意見交換をすることで、安全に対する意識を高め、仕事を再点検するきっかけづくりにするなど、さまざまな取り組みを進めております。
 また、安全を技術面から支える職員の育成、技術継承についても重要な課題でありまして、若手職員にOJTを行うベテラン職員の指導力強化に加えて、車両設備など、故障を想定した模擬訓練を実施するなど、実践力を養う取り組みを行っております。こうしたことは、職員のプロ意識を高め、安全面だけでなく、お客様への親切な案内など、サービスの向上にもつながるものと確信しております。
 今後とも、鉄道の安全を支える強い使命感を持った人材の育成に努めてまいります。

早坂委員 

 先ほど、交通局の財政再建、経営効率化の歴史に触れましたが、現在では、多くの仕事が関連団体や協力会社などに委託されていると承知をしております。都営地下鉄の運営が、交通局だけでなく、委託先に支えられるようになったことを考えると、安全対策は、もはや交通局の中だけの取り組みや交通局の職員だけを対象にした取り組みでは不十分と考えます。
 そこで、交通局は、関連団体など委託先の安全対策の確立に向けて、どのように取り組んできたのか、伺います。

〇金子交通局長

 交通局では、鉄道における安全・安心の確保と経営効率化を両立させる観点から、業務内容などを踏まえまして、これまで、地下鉄車両や変電所設備の保守、駅業務などの一部について、関連団体などへの委託を進めてきておりまして、委託先に対しても、安全を確保するための必要な支援を行っております。
 具体的には、ノウハウを提供した上で、駅業務の委託先には当局職員と同等の教育訓練を委託先職員に実施させるとともに、保守業務を委託する関連団体には、安全マネジメント体制の確立を求めております。さらに、局職員を対象とした事故防止研修に委託先の職員の参加を求めるなどの取り組みも行っております。
 ご指摘も踏まえ、関連団体など委託先における安全確保に一層努めてまいります。

早坂委員 

 今後とも、安全対策の徹底をお願いいたします。
 本日は、地下鉄の安全に絞って質問をいたしましたが、交通局が所管するすべての事業において安全対策に取り組むとともに、分科会の我が党の質疑のように、エレベーターによるワンルート確保や、バス停上屋、ベンチの整備など、輸送サービスの向上にもしっかりと取り組まれるようお願いをしておきます。
 最後に、これからの交通局の局事業運営に向けた決意を伺います。

〇金子交通局長

 交通局は、長年にわたる財政再建、経営健全化の歴史を経て、ここ数年、財務面では一定の改善が見えてまいりました。しかし、安全の確立こそが経営の根本であるというのは、まさしくお話のとおりでありまして、安全・安心の確保こそが、地下鉄の経営基盤をより確かなものとし、企業価値を高めることになると、改めて意を強くしております。
 ただいまの質疑で、さまざまな安全への取り組みについて答弁してまいりましたが、安全対策に終わりというものはないわけであります。このことを肝に銘じて、地下鉄だけでなく、都営バス、荒川線、日暮里・舎人ライナーなど、局が運営するすべての事業について、徹底して安全を追求してまいります。
 同時に、駅のワンルート確保など、お客様サービスの一層の充実を図るとともに、財務面での課題である地下鉄事業の累積欠損金の解消、長期債務の縮減などに向け、経営をさらに効率化し、これまで以上にお客様から信頼され、支持される都営交通となるよう、全力で取り組んでまいります。