2016.10.05 :平成28年第3回定例会(第13号)本文
「オリパラのレガシー ~バリアフリー化~」

◯議長(川井しげお君) 昨日に引き続き質問を行います。
 七十四番早坂義弘君。
   〔七十四番早坂義弘君登壇〕
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七十四番(早坂義弘君) 知事、ご当選おめでとうございます。
 知事は、さきの施政方針演説で東京大改革を訴えました。知事が行う改革の先にあるのは、破壊でしょうか。それとも発展でしょうか。保守政治の推進は改革を拒むものではありません。むしろ改革を積み重ねることによって、守るべき価値の中心部分を次世代に引き継ぐことにあります。すなわち保守政治の進める改革の先にあるのは、破壊ではなく発展です。
 今、東京都政は、かつて例を見ないほど国民全体から注目をされています。都民が選んだ小池知事と建設的な議論をさせていただき、ともに都政発展のために、政策を競い合えることをとても楽しみにしております。どうぞよろしくお願いをいたします。
 二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックまであと四年となりました。
 ところで知事、東京ドームには観客席が全部で四万六千席ございますが、そのうち車椅子席はどのぐらいあると思われますか。正解は十二席。ちなみに、ニューヨークのヤンキースタジアムは、東京ドーム四万六千席とほぼ同じ規模の五万席のうち、車椅子席は一千席。十二席と一千席です。
 東京ドームの車椅子席には、介助者用のスペースが同じ数だけございます。説明用に広島球場の写真をごらんいただきたいと思います。
 私がまずお話ししたいのは、その位置が車椅子の隣ではなく真後ろにあるということです。
 私が友達や家族と映画やスポーツを見に行った場合、前後に座ることはありません。必ず隣に席をとります。先ほどのヤンキースタジアムの同伴者席は、車椅子席の隣に用意をされています。しかし、この写真ではそれが真後ろに用意されています。つまり、そこにいる人が同伴者なのか、それとも単なる介助者なのか、この認識の違いは決定的です。
 映画を見に行く、野球を見に行くといった場合に、単にそれが見えさえすればいいということは決してありません。なぜなら、野球や映画は実のところ手段にすぎず、楽しい時間を過ごすということこそが真の目的だからです。
 健常者の人たちは、恋人や友達と隣り合って座り、車椅子の人だけが一人ぽつんと座らされる、こんなに寂しいことはありません。
 さて、二つ目のお話に移ります。
 野球やサッカーの場合、点が入ると観客は立ち上がって歓声を送ります。この写真にあるとおり、前の人が立ち上がると、車椅子の人はその試合の最もいい瞬間を見逃すことになります。それを防ぐためには、前の人が立ち上がっても、その後ろの車椅子の人が見えるように、最初から車椅子席をかさ上げしておく必要がございます。これをサイトラインの確保と呼びます。
 これまでお話ししたような競技施設における車椅子席の質と量に関しては、IPC、国際パラリンピック委員会が整備基準を定めています。車椅子席の量に関しては、オリンピック開催時には〇・七五%、パラリンピック開催時には一から一・二%、そして、オリ・パラ終了後のスポーツイベントでは〇・五%と定められています。ちなみに、先ほど言及した東京ドームは〇・〇二六%でございます。
 古い国立競技場には、五万席のうち四十席の車椅子席がございました。それが新国立競技場では、八万席のうち四百八十席と十二倍にふえることになっています。
 しかし、これには裏話がございまして、実は当初のザハ・ハディド案のときには、車椅子席は百二十席、〇・一五%の設計案でした。それを知った障害者団体が少な過ぎると声を上げたころに、新国立競技場の計画全てが見直しとなり、その後の隈研吾案で、ほぼIPC基準の車椅子席が確保されることになったのです。これはザハという個人が悪いのではなく、設計案を練る際に車椅子の当事者を入れなかったという仕組みが悪かったのだと思います。
 現在のプランは、障害当事者の意見がふんだんに取り入れられており、新国立競技場は二〇二〇年東京大会の代表的なレガシーの一つになるだろうと大いに期待しております。
 二〇二〇年大会の広報メッセージは、みんなの輝き、つなげていこう、ユニティー・イン・ダイバーシティー、すなわち多様性の尊重、共生社会の実現こそが、二〇二〇年大会の最大のレガシーだと位置づけられております。
 そう、ダイバーシティーとは、知事のおっしゃる三つのシティーの一つです。障害がある人もない人も、日本人も外国人も、大人も子供も高齢者も、男性も女性も、みんなを含んだ概念がダイバーシティーです。それは、さまざまな当事者が計画の策定段階から実際に競技を楽しむところまで、全ての段階に加わってこそ、二〇二〇年大会が目指す真のダイバーシティーが実現されるのだと思います。
 車椅子には、手動の車椅子、電動車椅子、ストレッチャーというベッドタイプの車椅子など、形も大きさもいろいろです。
 私がヤンキースタジアムを見に行って最も印象に残ったのは、そのストレッチャー用の車椅子席が、何とバックネット裏の最前列に設置されていたことです。
 ヤンキース球団の方に伺うと、人生最後の瞬間をヤンキースとともに過ごしたいというリクエストがある、その願いをかなえるために、ストレッチャーでも入れる車椅子席を用意したとのことです。バックネット裏の最前列ですから、値段は二十万円もします。しかし、人生最後の瞬間というかけがえのない時間をヤンキースとともにという熱烈なファンの願いと、それをかなえようという球団の思いに、私は言葉を失いました。
 今回の二〇二〇年大会で使用する施設は、新設も改修も、今後五十年間使い続けるものです。コスト削減は当然のことです。しかし、バリアフリーなど、必要な投資、有益な投資をためらうことがあってはなりません。なぜなら、そこに集うさまざまな人々の熱い思い、すなわちハートを大切にしないハード、施設ほどむなしいものはないからです。ハートとハードであります。
 二〇二〇年大会のレガシー、すなわち多様性の尊重、共生社会の実現に向けた第一歩として、障害がある人も楽しめるよう、まずは二〇二〇年大会全体のバリアフリーを進めていくべきと考えます。知事のご見解を伺います。
   〔知事小池百合子君登壇〕
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◯知事(小池百合子君) 早坂義弘議員の一般質問にお答えさせていただきます。
 大会時のバリアフリーの推進についてのお話、お尋ねがございましたけれども、その前に、東京都政の発展に向かってともに働いていきたいと、このようにお答えをしておきたいと思います。
 そして、バリアフリーの推進につきましては、大変具体的な例も出していただいたわけでございます。今後、高齢化が加速する東京でございます。二〇二〇年大会の開催、高齢者や障害者など全ての人々に優しいユニバーサルデザインのまちづくりを推し進めて、まさしくダイバーシティーの実現に大きく近づく最大の契機だと思っております。
 また、パラリンピックの成功なくして大会の成功はありません。施設の設計をパラリンピックに合わせて進めることが、誰もが楽しめる大会全体の環境整備につながる、このように考えております。
 施設の整備に当たりましては、大会時のバリアフリー化の指針を遵守するだけでなくて、障害の違いに応じたきめ細やかな心配りが重要かと存じます。
 そのため、都といたしまして、恒久施設の整備に関して設計の段階から、さまざまな障害のある方々より、施設の使い勝手についてしっかりとご意見を伺ってまいりたいと考えております。
 そして、そのいただいたご意見に基づきまして、例えば車椅子を利用なさっている方々が健常者と同様に、さまざまな場所で観戦できるような席の配置、そして、いわゆる誰でもトイレに利用が集中する傾向がございますけれども、利用者それぞれの障害などに対応したトイレを個別に用意することなどを実施設計に反映していく考えでございます。
 こうした取り組みを通じまして、バリアフリー化はもとより、ユニバーサルデザインの大会施設を将来に残るレガシーとしてまいりたいと考えております。
 その他の質問については関係局長が答弁することになっておりますが、ご指摘のあった東京都美術館での写真撮影、私は全然オーケーだと思っておりますので、詳しくは局長の答弁をお聞きいただきたいと思っております。