2008.11.18 : 平成20年文教委員会
「学校医、学校歯科医、学校薬剤師の役割」

早坂委員

 学校保健における学校三師、すなわち学校医、学校歯科医、学校薬剤師の役割について伺います。
 そもそも学校医、学校歯科医、学校薬剤師は各学校に必ず置かれなくてはならないのか、まず、その設置根拠について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 学校医等の設置根拠は学校保健法第十六条でございます。学校には学校医、学校歯科医、学校薬剤師を置くものと規定されてございます。
 この規定に基づきまして、都内の公立学校においては、各学校に学校医三名、学校歯科医、学校薬剤師それぞれが一名配置されてございます。

早坂委員

 では、学校医の役割について伺います。
 学校医は何科の医師がどのように選ばれるのか、またその職務の内容について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 学校には原則として内科または小児科の一般学校医のほかに、眼科医、耳鼻咽喉科医等の三名が学校医として配置されております。
 公立学校の学校医の選任に当たっては、多くの場合、各教育委員会が地区の医師会から推薦を受け、委嘱しております。
 学校医の職務は、学校における学校管理に関する専門的事項に関し、技術及び指導に従事するとされております。具体的には、校長等学校教職員、学校医等学校三師、保護者及び地域の代表者から構成されます学校保健委員会において、学校保健安全計画の審議をすること及び児童生徒等の健康診断に従事し、その結果に基づいて疾病の予防措置を行うこと、また学校伝染病の予防に必要な指導と助言を行うことがございます。

早坂委員

 子どものメンタルケアの観点から、精神科医の配置を求める声もあるようです。
 さて、健康診断の結果、再検査もしくは治療が必要だという結果が出た場合、どのような方法で保護者に連絡をしているのか、また、再検査もしくは治療をきちんと行ったかをチェックする仕組みになっているのか、伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 健康診断の結果についてですけれども、健診終了後二十一日以内に学校から本人及び保護者に通知するとともに、精密検査や治療が必要な場合には、検査や治療を受けるよう指示しております。
 受検結果は学校生活管理指導表などで把握いたしまして、体育活動などの学校生活において配慮できるようにしております。

早坂委員

 学校での健康診断の結果は、例えば転校や卒業した場合、新しい学校や職場に引き継がれるのか、伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 健康診断の結果は健康診断票として作成されまして、児童生徒が転校や進学した場合には、新しい学校の校長に送付されます。就職した場合などは、健康診断票はもとの学校に五年間保存されることになっております。

早坂委員

 五年間の保存義務とのことですが、せっかくの貴重なデータが学校に保存された後、そのまま処分され、本人に渡らないのはもったいないことだと思います。学校を卒業する際に、小学一年生からのすべての健康診断の記録に体力測定の記録も加えて、電子データや健康手帳などで本人に渡したらいいと思います。法的な義務ではないので、東京都独自の施策として行うよう提案します。
 ところで、学校での疾病による死亡事故では、突然死が半分近くを占めています。主な原因としては心臓疾患が挙げられますが、これに対し、平成七年度から学校心臓検診として、全国的に心電図検査が義務づけられるようになりました。その成果について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 全国の状況になりますが、日本スポーツ振興センターの統計から、学校管理下での突然死は平成十年ごろから減少を続けまして、現在、年間四十件程度で、平成十年以前の半数以下になっております。まさに、ご指摘のあった学校健診での心電図検査の義務化や学校での救急措置に対する学校医の助言、指導などにより、この大きな成果が生まれたと考えております。
 なお近年、さらに学校へのAEDの配置が進んでいることから、突然死のさらなる減少が期待されているところでございます。

早坂委員

 昨年は高校生や大学生を中心に、はしかが大流行しました。よく知られた病気でありますが、改めて、はしかとはどういう病気か伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 はしかは、高熱と発疹を特徴とし、まれに脳炎などを併発して死に至ることもある重篤な病気で、感染力が非常に強いため学校伝染病に指定されております。
 予防接種などにより南北アメリカや韓国では既にはしかは制圧されているため、先進国の中で日本は対策のおくれた国の一つとされております。

早坂委員

 アメリカではかつて年間八十万人がはしかに罹患していましたが、一九九〇年代前半にワクチン接種を徹底させたおかげで、現在はアメリカ国内での流行は排除されています。ごくまれに見られるアメリカ国内でのはしかの原因は、すべて海外からの輸入感染によるもので、何と我が国がその原因の第一位、しかも第二位の国のおよそ二倍という大変不名誉な状態にあります。
 昨年の東京でのはしか大流行の状況と学校医の果たした役割について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 平成十九年は南関東を中心にはしかが流行し、それまでの三年間、東京都の公立学校でのはしかの報告は百名以下であったのに対しまして、約千三百名の報告があり、臨時休業を行った公立学校は三十五校に及びました。
 はしか対策にはワクチン接種が最も肝心であることから、東京都医師会の全面的な支援のもと、学校医によるワクチン接種等が実施されました。学校医の協力なくしては十分なはしか対策が実施できなかったものと認識しております。

早坂委員

 昨年のはしか大流行を契機に、国はことしから、はしかと風疹の混合ワクチンであるMRワクチンの法定接種を中学一年生と高校三年生に行うよう定めました。はしかと同様に風疹も、成人してからかかると、例えば妊婦であれば流産のリスクが高まるなど、重症化するおそれが大きいのです。
 このMRワクチンの接種を進めていくことで、二十二歳以下の世代が世界標準である二回接種を受けることになり、ひいては五年後には我が国全体からはしかと風疹が排除されることを期待します。
 ところで、これからの時期はインフルエンザなどの感染症によって、出席停止、学級閉鎖、学校閉鎖となるケースが多くなります。これはだれの判断によって決定されるのか、また学校医の果たす役割について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 感染症の発生に伴う出席停止は、学校医など医師の助言により、校長が判断いたします。学級閉鎖や休校は、設置管理者であるそれぞれの教育委員会が判断することになりますが、いずれの場合も、その要否や期間について、学校医は指導、助言する役割を負っております。

早坂委員

 次に、学校歯科医について伺います。
 虫歯の経験指数、すなわち一人平均これまでに何本虫歯になったことがあるかを示すデータがDMFT指数であります。Dはディケイ、永久歯の虫歯で未処置の歯、Mはミッシング・ビコーズ・オブ・ディケイ、虫歯が原因で失われた永久歯、Fはフィルド、永久歯の虫歯で治療が完了した歯、Tはティース、すなわち歯であります。
 東京都内の中学一年生の経年比較で見ると、昭和六十三年には四・〇六本だったのが、この二十年間毎年着実に減り続け、平成十九年には一・四七本までに減少しました。東京都歯科保健対策推進協議会が定めた西暦二〇一〇年の歯科保健目標では一・三本であり、目標達成間近、これは我が国の歯科医療の勝利といえるだろうと思います。
 そこで、虫歯の数が見事に減ってきた理由について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 虫歯の数が減ってきた要因についてでございますけれども、各学校ごとに学校歯科医を置くという日本独特の学校歯科医制度のもとで、学校、家庭、学校歯科医が連携いたしまして、歯科保健指導を根気強く行ってきたことがまず考えられます。
 また、弗素化物入り歯磨き剤の使用が進んだこと、甘味料の摂取が減少していることも虫歯減少の要因の一つといわれております。

早坂委員

 弗化物かと思います。
 では、学校歯科医の主な役割について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 学校歯科医の役割についてでございますけれども、大きく分けて、歯科保健教育、歯科保健管理、組織活動の三つがあります。
 歯科保健教育については、歯科保健指導に必要な教材や資料の提供、助言、また直接学級担任、養護教諭とともに、チームティーチングによる特別活動等への参加がございます。
 また、歯科保健管理については、歯、口腔の健康診断、事後措置として健康診断結果に基づく歯科疾患の予防や必要な治療の指示、また歯、口腔の健康相談があります。
 組織活動といたしましては、学校保健安全計画の立案に参加し、必要な意見を述べたり、保護者向け保健便りの執筆等がございます。

早坂委員

 私ごとですが、私の妻は歯科衛生士です。歯科衛生士の主な職務は歯のブラッシング指導です。妻にいわせると、虫歯を治すのはいっときの話、虫歯にならないようにするのは一生の話だから、私たちの役割は大きいの、とのことです。
 きちんと歯を磨くという生活習慣を身につけることは、家庭のみならず、学校においても指導すべきことだと思います。かつて三食後、三分以内に、三分間歯を磨こうという三・三・三運動がありました。親しい歯科医師に聞くと、今は一日一回、きちんと歯垢を落とすことに指導の重点が移ったそうであります。もちろん三食後、三分以内に、三分間歯を磨いて悪いことはないのでしょうが、形式でなく、中身のあるブラッシングにこそ意味があるということだと思います。
 虫歯は着実に減ってきている一方で、歯肉炎、そして歯列不整、歯並びの悪さには改善が見られていません。一日一回のきちんとした歯磨きは、教育という観点からすれば、学校での給食後にこそ重点を置くべきではないでしょうか。これをしっかり進めていくためには、洗口所、口をゆすぐ場所の整備など、必要な条件が幾つもあります。
 そこで、学校において歯科に関するどのような指導、教育が行われているか、伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 歯と口の状態や変化は、他の疾患と違い、自分自身で直接観察できることから、保健指導の極めて貴重な教材となっております。
 こうした側面に着目し、歯科に関する指導等については、定期健康診断の結果も十分踏まえた上で、家庭とも連携した養護教諭による保健指導、学校全体による給食後の歯磨きなどの日常指導、またPTAとも連携した学校歯科医による歯と口の健康づくりに関する講話や講演、児童生徒による保健委員会活動など、学校活動全体の中で取り組んでいるところでございます。

早坂委員

 近年では、食育の観点からも、かむことの重要性が叫ばれています。しっかりかむためには、歯と口の健康が前提になります。そこで、食育を進める中で、歯と口の健康についても取り組むべきだと考えます。ご見解を伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 食育は生きる上での基本であって、知育、徳育、体育の基礎となるものでございます。
 都教育委員会としては、現在、各公立学校に食育推進組織を設置し、生きた教材としての学校教育やさまざまな教科学習の時間を活用いたしまして、食育を推進しております。
 食育を効果的に進めるためには、歯と口の健康と正しい口腔機能のもとに、しっかりとよくかむこと、おいしく食べること、味わうことを指導する必要があります。
 今後も引き続き給食指導への参加、歯の衛生週間行事や学校保健委員会での講話、指導、助言など、学校歯科医の積極的な協力を得まして、学校における食育を推進してまいります。

早坂委員

 次に、学校薬剤師について伺います。
 学校医、学校歯科医が子どもと直接向かい合う対人の業務であるのに対し、学校薬剤師は、水、空気、音、光と向き合う対物の業務であるといわれています。子どもと直接向かい合う機会が少ないため、その存在は意外と知られていませんが、実は学校で頻繁に、さまざまな検査に取り組んでいます。
 そこで、学校薬剤師の職務について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 学校薬剤師は、健康的な学習環境の確保のために、学校環境衛生の維持管理に携わっており、主な職務は学校での環境衛生検査の実施及び結果に基づく指導、助言であります。
 具体的には、飲料水の検査、プールの水質検査、給食設備の衛生検査、教室の明るさや空気の汚れぐあい、シックハウス対策など、科学的な方法で定期的に状況を把握するとともに、学校保健委員会に参加し、学校保健安全計画の立案に必要な指導、助言を行っております。

早坂委員

 最近では、大学生の大麻取引など、考えられないような事件が多発しています。そのほかにも麻薬、覚せい剤、脱法ドラッグ、そして健康食品による健康被害など、薬物に関する問題が山積しています。これらの意識啓発に関する学校薬剤師の役割について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 児童生徒が薬物乱用の有害性、危険性や医薬品等に関する適切な知識を習得することは重要な課題でございます。
 東京都学校薬剤師会では、薬物乱用防止や薬の正しい使い方などに関するパンフレットや模型等を作成しております。学校薬剤師の役割は、これらの資料を活用するなどいたしまして、児童生徒の理解が進むよう、専門的知見を生かしたわかりやすい啓発を行うことでございます。

早坂委員

 ところで、学校保健法は平成二十一年四月から学校保健安全法に改正されます。法改正の目的と改正される内容について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 子どもの生活習慣にかかわる問題や子どもを標的とした事件など、健康、安全に係る課題が近年多く指摘されております。
 このような状況を踏まえまして、改正法は学校保健及び学校安全のさらなる充実を目的に、国や学校設置者などの責務を明記するとともに、学校保健から学校安全を独立させた構成となりました。
 学校保健では、地域の医療機関等と連携を図りつつ、健康相談、保健指導を行うべき旨の規定、養護教諭その他の職員の相互連携の規定、学校環境衛生基準を定める規定などが新設されております。

早坂委員

 では、法改正後の学校薬剤師の新たな役割について伺います。

〇皆川地域教育支援部長

 今回の改正では、これまでガイドラインとして示されていました学校環境衛生の基準が法律上明記されることになりました。学校薬剤師は、新しく規定される基準に沿った環境衛生検査を確実に実施し、学校保健計画の立案に積極的に参加していくこと、また、薬物乱用防止活動など薬の専門家として学校とのかかわりは重要性が増してきており、学校や学校医等と連携を図りながら、児童生徒の多様な健康課題に適切に対応していく役割を担っております。

早坂委員

 お話をるる伺い、学校医、学校歯科医、学校薬剤師の役割の内容がつかめました。大きく分けて、法的義務である健康診断や環境衛生検査に代表される医学的アプローチと、義務ではないが実際に行っている健康づくりに関する講話などの保健学習に代表される教育的アプローチの両者が、その役割だと理解しました。東京都は学校三師とさらに連携を深め、子どもの健康増進に努力するようお願いをいたします。