2009.10.29 :平成21年厚生委員会
「生活保護」

早坂委員 

 生活保護について伺います。
 生活保護と聞いて、反応は大きく二つに分かれるように思います。
 一つは、必要な人に十分行き渡っていないという見方。その代表例が、平成十九年に福岡県北九州市で、生活保護を打ち切られた男性が餓死したというケースであります。
 もう一つは、必要以上に手厚い保護を受けているという見方。こちらの代表例が、同じ平成十九年に北海道滝川市で、百キロ離れた札幌の病院までの往復のタクシー代二十万円が医療扶助の移送費の支払いとして積み重なり、二年間で二億四千万円が支払われていたというケースであります。
 前者を漏給。この漏給の漏は、情報漏えいの漏、漏れるという字でありまして、後者は濫給。権利の濫用の濫。さんずいに監督の監。漏給と濫給であります。そのどちらの立場をもってしても、現状の生活保護制度には問題ありということになります。
 そこで、生活保護に関して、その仕組みと課題について伺います。
 生活保護は、社会のセーフティーネット、最後のよりどころとして重要な役割を果たしているといわれています。
 では、具体的にどのような場合に受けられるのか、また、その給付水準について伺います。

〇永田生活福祉部長

 生活保護は、生活に困窮する方が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものをその最低限度の維持のために活用することを要件としてございます。
 具体的には、資産等あらゆるものを活用してもなお、その方の収入が国の定める保護の基準によって算定された生活費を下回る場合に、その不足分について保護するものでございます。
 都内の二十三区で、夫が三十三歳、妻が二十九歳、子どもが四歳の三人世帯の場合、一般生活費が月額十六万七千百六十七円、住宅費が六万九千八百円以内、合計二十三万六千九百六十七円以内の実費を支給することとなっております。

早坂委員 

 次に、東京都内での生活保護の受給の状況と動向について伺います。

〇永田生活福祉部長 

 都内の状況でございますけれども、昨年秋以降の経済雇用状況の悪化を受けまして、特に平成二十一年に入ってからは、保護の相談、申請が全都的に急増しております。
 直近の平成二十一年八月における被保護世帯数はおよそ十七万三千世帯、被保護人員は二十二万七千人、保護率は一七・五パーミルとなっており、世帯数及び人員は平成四年のおよそ三倍、昭和二十六年の生活保護制度発足以来最高値となってございます。

早坂委員 

 年金と生活保護では制度の趣旨が違うとはいえ、国民年金では四十年間かけ続けて月額六万六千円。一方、生活保護では、都市部の六十五歳単身世帯の算定モデルでは、一般生活費と住宅費を合わせると、最高で月額十三万五千円になります。
 生活保護にはさまざまな加算基準があり、私の住む杉並区の例でいうと、母親と子ども五人の六人で構成されているある世帯では、月額三十七万八千円の給付を受けています。加えて、医療費が一〇〇%扶助され、教育費も扶助されるので、生活保護を受ければいいから仕事はしないし、年金もかけないというモラルの破綻を起こしている人も恐らく存在するのだろうと思います。
 生活保護の費用は一〇〇%国民の税金で賄われています。真に生活に困窮している人が受給することは国民の権利でありますが、一方で、どのような義務を課せられているのか伺います。

〇永田生活福祉部長 

 生活保護を受けている方には、生活保護法によりまして、常に能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、生活の維持向上に努める生活上の義務がございます。また、収入、支出、その他生計の状況の変動、居住地、世帯の構成に異動があったときには速やかに福祉事務所長に届ける義務や、福祉事務所長が生活の維持向上その他保護の目的達成のために行う指導または指示に従う義務がございます。

早坂委員 

 真に生活に困窮している人に対して適切な保護を与えるためには、人道的立場と公平性の両者をうまく機能させることが必要であり、それによって生活保護の制度は成り立つのだろうと思います。
 「アリとキリギリス」という有名なイソップ物語があります。夏の間は、アリは冬の間の食料を蓄えるためにせっせと働き続け、キリギリスは歌を歌って遊びほうけていました。やがて冬が来て食べる物がなくなったキリギリスは、アリに頼んで食べ物を分けてもらおうとするけれども、夏には歌っていたんだから、冬には踊っていたらどうですかと断られたというお話であります。
 自業自得、ごもっともな話なんですが、問題は、貧困に至った理由はどうであれ、行政は、現に目の前に倒れているキリギリスを見殺しにはできないということであります。キリギリスには最低限の住まいと食事を用意し、体力と気力を回復してもらって、働いてもらわなければなりません。もし仮に、食うに困ったキリギリスがアリを襲うようなことになったら、社会の秩序そのものが崩れてしまうことになります。そうしたことを起こさないためには、キリギリスには教育を受けてもらい、働く能力と、働くことの楽しさを身につけてもらう以外にないと考えます。
 ところで、そもそもセーフティーネットとは、空中ブランコから落ちた人を救う網であります。網に落ちる人が少なければ十分に支えられますが、落ちる人が多くなり過ぎると、その網は当然のこと破れてしまいます。今必要なのは、一度網に落ちてきた人に、いかにもとの世界に戻ってもらうかという仕組みづくりであると思います。
 すなわち、今必要なのはセーフティーネットではなく、むしろトランポリンであると思い、トランポリンの役割を果たすのが、私は教育であると思います。現在のような厳しい雇用状況の中でも、働ける人には生活保護から脱却してもらうべく、就労などの支援を行う必要があるとも思います。東京都の取り組みについて伺います。

〇永田生活福祉部長 

 生活保護受給者に対します就労支援でございますけれども、各福祉事務所が就労支援プログラムを策定し、実施しております。そして、この就労支援プログラムに沿って、現在、四十九の区市にハローワークOBなどの就労支援員が配置され、自立に向けて支援を実施しております。
 都は、独自の取り組みといたしまして、福祉事務所とハローワークとの連携強化を図る業務連絡会の実施や、被保護者自立促進事業による求職活動などに係る費用の助成、各区市の先進的な取り組みに関する周知などを行っておりまして、生活保護受給者の自立に向けた就職支援策が円滑に実施されるよう、各区市を積極的に支援をしております。

早坂委員 

 働ける人には働いてもらうというのは当然のことでありますが、やっかいな問題は、高齢化が進むことによって働けない人がふえることにあります。事実、今日、生活保護受給者の半数近くが高齢者であります。また、若年、中年層において、フリーターや派遣労働などの非正規雇用が今後さらに増加することと、そもそも労働をしていないいわゆるニートの増加によって、年金を十分にかけていない人が激増すると予想されています。
 今のところは親元で暮らしているため顕在化していませんが、今後、これらの人の多くが、将来、生活保護に入ってくるとなると、高齢プラス無年金で、生活保護の仕組みは破綻するのが目に見えています。
 一方で、最低賃金との逆転現象も指摘されています。東京都内の最低賃金時間給は七百九十一円。一日八時間、月に二十日間働いて十二万七千円。これに対して、先ほどのご答弁にあった親子三人のモデル家庭では、月額二十三万七千円の生活保護費が支給されるのであります。年金制度や最低賃金のあり方を横目で見ながら、生活保護の制度そのものを抜本的に見直す時期に来ているのだろうと私は考えます。
 もとより、年金も生活保護も国の制度であり、これら我が国の社会保障制度については、国民が安心できるものであることはもちろん、毎日地道に働いている私たち一般納税者が納得できる将来的なビジョンを国が責任を持って示すべきであります。
 制度論はこれくらいにして、直近の課題として、この年末の雇用対策も急がなければなりません。昨年末は日比谷公園に年越し派遣村が設置され、三百人が集まり、大きな話題となりました。国は、十月二十三日、緊急雇用対策を発表しました。
 これについて、現在、東京都は国からどのような説明を受けているか、また、今後、実施に向けて混乱が生じないよう国に対し強く要望すべきと考えます。ご見解を伺います。

〇庄司生活支援担当部長 

 十月二十三日、国が発表いたしました緊急雇用対策につきまして、現時点では具体的な内容が明らかになっておりません。
 ワンストップ相談の実施に関しましては、実際に支援を行うのは、ハローワークのほか、都及び区市と社会福祉協議会などであります。こうした関係機関に対しまして、いまだに具体的内容が示されず、財源措置についても詳細は不明であります。実施に向けて混乱を招かぬよう、ご指摘のように、国に対し、早急に具体的内容を示すよう強く要望してまいります。

早坂委員 

 昨年末の年越し派遣村では、国の方針で、生活保護が異例のスピードで申請者のほぼ全員に認められました。生活保護を認定した千代田区では、平時では四百人の生活保護者を抱えていますが、このときの集中認定で、一気に三百人増の七百人となりました。この間の手続で、現場の千代田区や東京都は大変な騒ぎだったと聞いています。
 本来は、地方自治体と事前に調整した上で、実施内容や財源について決定すべきであります。しかし、現場で市民と接する区市町村との調整がないまま、一方的に実施方針について決定し、現時点でもいまだ具体的な内容が示されていないというような国のやり方では、円滑に事業実施ができるのか疑問であります。混乱なく実効性ある緊急雇用対策となるよう、東京都としてしっかりと主張していただくよう、お願いをいたします。