2011.02.25 : 平成23年度予算特別委員会
「緊急輸送道路沿道建築物の耐震化」

◯山下委員長 

ただいまから予算特別委員会を開会いたします。
 これより付託議案の審査を行います。
 第一号議案から第二十八号議案までを一括して議題といたします。
 昨日に引き続き総括質疑を行います。
 早坂義弘委員の発言を許します。
   〔委員長退席、高橋副委員長着席〕

早坂委員 

 まず、耐震化について伺います。
 東京にマグニチュード七クラスの地震が発生する可能性は、今後三十年以内に七〇%まで切迫していると政府は発表しています。私は、これまで議会の場で耐震化施策の充実を何度も訴えてまいりました。
 平成二十年の予算特別委員会で、翌日の朝方までかかった日がありました。その日の質問で、私は、阪神・淡路大震災の被災現場からのラジオ中継を聞いていただきました。倒壊した建物の下敷きになった息子さんに火が迫り、おやじ、逃げてくれの言葉を受け、結果として息子さんを目の前で見殺しにせざるを得なかった父親の悲痛な叫びを、石原知事はきっと覚えていてくださると思います。
 私の主張は二つです。
 第一に、地震による死亡原因は、家屋倒壊や家具転倒に起因する圧死、窒息死がほぼすべてであり、生死が決するのは地震発生から数分以内だということ。
 第二に、備蓄食料や避難訓練はあくまで生き残った人のための施策であって、地震から命を守るために必要なことは、建物の耐震化と家具の転倒防止に尽きることであります。
 建物の耐震化こそが地震防災の本丸ですが、一方で、所有者の私有財産である建物の耐震補強を税金を使って行うことには議論があります。本議会に提案されている特定緊急輸送道路の沿道建物の耐震化については、直接的に住民の生命と財産を守るものではありませんが、重要な内容を含んでおりますので、細かく伺ってまいります。
 まず、緊急輸送道路とは、区役所や病院などの指定拠点を相互に結ぶ道路や他県との連絡に必要な道路を指します。阪神・淡路大震災でも、幹線道路沿いのビルやマンションが倒壊し、救急車両や救援物資の搬送の妨げになったことは記憶に新しいところです。
 そこで、予防の観点から、特に重要な道路は、地震が起きても道路をふさぐことがないよう、あらかじめ沿道建物を耐震化しておくという防災まちづくりこそがこの施策の趣旨であります。
 緊急輸送道路の沿道には、旧耐震で建てられ、かつ道路を半分以上ふさいでしまうおそれのある建物が一万二千棟あります。その中で、今回の新たな施策の対象とするのが、特定緊急輸送道路であります。どれをこの特定緊急輸送道路に指定するかは、本年六月をめどに決まります。その指定に当たっては、警視庁が震災時に交通規制を行う緊急交通路や、道路管理者が応急補修を優先的に行う緊急道路障害物除去路線など、他の施策との整合性を図り、また区市町村の意見も聞いて実施していただきたいと思います。
 さて、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ平成七年十月に定められた耐震改修促進法では、診断と改修は建物所有者の努力義務であり、やる、やらないは所有者の意思にゆだねられています。
 これに対して、東京都は、平成二十一年度から、診断費用のうち最大で五分の四の補助事業や改修費用に対する低金利融資制度を行ってきました。加えて、沿道建物の所有者への意識啓発として、総延長五百五十キロメートルの建物所有者に対し個別訪問を行ってまいりました。
 しかし、この三年間で診断を行ったのは、対象一万二千軒のうちわずかに三十九軒、〇・三%です。さらに、改修に至っては実に三軒のみ。耐震化は全く進んでいません。四千軒の個別訪問までして、東京都がこれだけ力を入れてきた事業の成果が、実は〇・三%であります。
 心理学の用語に正常化の偏見というものがあります。これは、自分にとって都合の悪い情報を、まさか自分がと無視したり、過小評価したりする心のあらわれのことです。例えば、これほどおれおれ詐欺が社会的問題になっていても、いまだにだまされる人がそのいい例であります。耐震化が進まない理由には、この正常化の偏見が物すごく大きいのだと思います。
 話は少し脱線しますが、パニック神話という言葉もあります。例えば、混雑した駅やデパートで非常ベルが鳴ると、みんな慌てて一斉に避難し、パニックが起こりそうなものですが、現実には、どうせ誤報だろうとか、まさか自分が火事に巻き込まれるわけがないと思う正常化の偏見がそれぞれに働き、結果、逃げおくれるケースが実はたくさんあるようです。韓国での地下鉄火災がまさにそうでありました。つまり、非常事態に直面した際にパニックが起きるというのは神話にすぎず、むしろどうやって目の前の危険を重く見てもらうかが大切だというのです。
 話を戻します。沿道建物の耐震化に対して、東京都はこれまでさまざまな施策を行ってきましたが、それが実を結ぶことにはなりませんでした。
 そこで、新たな規制策がこれまでのものとどう違うか、どう実効性を持たせるのか。その内容について伺います。

◯河島東京都技監 

 都は、これまでも緊急輸送道路沿道建築物に対して、耐震診断、改修に対する補助のほか、所有者に対する普及啓発や個別訪問などを行い、耐震化の促進を図ってまいりました。
 しかし、現在の法律では、お話のとおり、耐震診断、改修とも努力義務にとどまり、その実施を所有者の意思にゆだねていることから、具体的な行動になかなか結びついてこなかったというのが現実であります。
 このため、今回、新たな条例案を提案し、特に重要な道路を特定緊急輸送道路として指定し、その道路に面する建築物の所有者に対して耐震化に必要不可欠な耐震診断を義務づけることといたしました。
 これに合わせ、診断費用について、平成二十五年度までの間、原則として所有者の負担がなくなる新たな助成制度を整備することにより、容易に義務履行ができるようにいたしました。これにより、路線全体にわたって建築物の耐震性能を早期に明らかにし、耐震改修に結びつけてまいります。
 今後は、診断技術者の紹介、相談への対応などの技術的支援を一層きめ細かく行い、所有者の主体的な取り組みを促していくとともに、耐震診断が自発的に行われない場合には、条例に基づく指導、助言等を行い、必要に応じて公表や命令などを適切に実施し、条例の実効性を確保してまいります。

早坂委員

 新たな規制策の基本的枠組みは三段階です。
 まず、対象となる建物の所有者に耐震化状況報告書の提出を義務づけます。すなわち、これまで診断や改修を行ったことがあるかどうか。既に行った場合には、その結果を東京都に報告してもらいます。
 次に、その上で必要なものに対し耐震診断を義務づけます。
 最後に、結果報告書に基づき、耐震改修等の実施が努力義務として定められています。
 この耐震改修等の等でありますが、倒壊の危険性をなくすためには、補強工事を行う以外に、新しいビルに建てかえる、あるいは更地にするという方法もあります。建物所有者に対して診断を義務化するところまでは社会の合意が得られても、倒壊の危険性ありと診断された建物を、補強するのか、建て直すのか、あるいは更地にするのかの強制はできず、したがって、こちらは努力義務にとどめるということでしょうか。
 いずれにしても、耐震化のスタートである診断からゴールの改修までいかにつなげていくかが重要となります。診断により建物の耐震性能を明らかにすることが、耐震化に向けた所有者の動機づけになるだろうと思います。それを後押しするためには、東京都と区市町村が連携して、耐震化に向けた取り組みを強化させることが必要だと考えます。
 先ほどご答弁にありましたとおり、実効性を高めるためには、診断の義務化と、それにかかる費用の自己負担ゼロをセットにしたところが新しい制度の特徴です。しかし、私有財産である建物の耐震化は、私有財産の所有者本人が行うべきという議論があります。そこに税金を投入するからには、どんな公益性があるのか、ご見解を伺います。

◯河島東京都技監 

 建物の所有者は、みずからの生命と財産を守るだけではなく、建物利用者や周囲への被害を生じさせないよう建築物の耐震性能を確保する社会的責務を負っております。
 そのため、耐震診断や改修など耐震化に要する費用については、これまでも基本的には所有者の責任で対応することを原則としつつ、老朽化した木造住宅が特に密集している地域など、防災対策上の必要性が高い場合には一定の助成を行ってまいりました。
 今回の特定緊急輸送道路の沿道建築物の耐震化は、震災時における広域的な救援活動や復旧、復興の大動脈を一刻も早く確実に確保し、大地震から都民の生命と財産を守るとともに、首都機能の低下を防ぐことを目的とするものであり、極めて公共性、緊急性が高い施策でございます。
 このため、全国で初めて条例に基づく耐震診断の義務づけを行うとともに、確実に実行されるよう、原則として所有者負担がなくなる新たな助成制度を整備することといたしました。
 さらに、耐震診断の結果に基づき耐震改修が着実に進められるよう、改修費用の助成を拡充して、所有者負担分を現行の三分の一から最大六分の一まで半減させることといたしました。

早坂委員

 条例は、状況報告書の提出と耐震診断の実施を義務づけています。それを耐震化にどうつなげていくのか、伺います。

◯河島東京都技監 

 今回の条例は新たに耐震診断を義務づけるものであることから、所有者の理解を得ながら進めていくことが必要不可欠と考えております。
 そのため、条例の内容に応じて段階的に施行することにしておりまして、まず、本年六月を目途に特定緊急輸送道路を指定し、その後、耐震診断や改修を実施しているか否かなどを把握するため、本年十月から三カ月の間に耐震化状況報告書の提出を所有者に義務づけます。また、所有者に対して条例の内容や支援策について説明し、十分に周知を図った上で、耐震診断の義務づけ等に関する規定を平成二十四年度当初から施行いたします。
 一方、できるだけ早く所有者に耐震診断、改修の取り組みを開始してもらうため、助成制度の拡充につきましては、義務化に先行して平成二十三年度から開始し、耐震診断は平成二十五年度まで、耐震改修は平成二十七年度までの時限措置とすることで、所有者に早期の取り組みを強く促してまいります。
 このように、条例の施行手順につきましても工夫を凝らして、新たな条例に基づく緊急輸送道路沿道建築物の耐震化施策を着実に推進し、災害に強い首都東京を実現してまいります。

早坂委員

 ありがとうございました。
 これまでさまざまな施策を行っても、耐震化は一向に進展しませんでした。今般、特定緊急輸送道路の沿道建物に限ってではありますが、耐震化状況の公表や診断の自己負担ゼロなど、これまで類を見ない、相当踏み込んだ内容になっています。今度こそ成果を出していただきたいと思います。