2010.12.08 : 平成22年第4回定例会
「有料老人ホーム」

◯副議長(鈴木貫太郎君)
四十一番早坂義弘君。

〔四十一番早坂義弘君登壇〕

四十一番(早坂義弘君) 

 ついの住みかである民間の有料老人ホームに入居するためには、一体どれくらいの費用がかかるか、皆さんご存じでしょうか。多くの場合には、契約金に当たる入居一時金が必要であり、それが一千万円を超えるものが全体の三分の一を占め、中には三億円を超えるところすらあります。人生最後の高額な買い物が、この有料老人ホームだといえます。
 しかしながら、これに関するトラブルが多発しています。例えば、入居契約したものの、サービスの内容が悪く、短期で退去する事例が数多く見られます。その際、最初に支払った、例えば三千万円の入居一時金の返却を求めると、初期償却率が三五%だと計算されて、わずか一カ月の入居で一千万円も支払わされるなどのケースです。
 こうした問題が相次いだため、厚生労働省は九十日ルールを定め、九十日以内に退去した場合には、原状回復の実費を徴収した残金を利用者に返還しなければならないと指導しています。
 しかし、その九十日の起算日が、施設側は契約日と主張するのに対し、利用者は入居日と主張するなど、トラブルの種は尽きません。
 また、その規定をかいくぐる形で、最初から一切返金しないと定めた入居申込金という制度も一部にあるようです。
 東京都内の有料老人ホームには、本年八月現在、二万四千人の高齢者が暮らしています。一方、特別養護老人ホームには三万五千人が暮らしており、伸び率から考えると、近くこれを上回ると思われます。有料老人ホームは、高齢者の住まいの選択肢としてごく一般的な施設になってきています。
 施設の数から見ても、ここ十年間で十倍にまでふえていますが、一方で、東京都消費生活総合センターへの苦情相談も同じくらいふえており、最近の週刊誌では、これに関するトラブルが盛んに報じられています。
 では、一体、原因はどこにあるのでしょうか。
 そもそも、有料老人ホームの利用者である高齢者と、それを経営する事業者との間には、情報、資金、交渉力といったさまざまな面で圧倒的な格差、非対称性があり、高齢者は極めて弱い立場に置かれています。
 緻密な法律用語で書かれた分厚い契約書にサインしたとしても、その内容を本当の意味で高齢者が理解しているのか、実態面にこそ着目すべきであります。
 もしトラブルに見舞われた場合には、まずは東京都や地域の消費生活センターに相談して、助言や情報提供を求めたり、場合によっては東京都の第三者機関である消費者被害救済委員会に申し出て、公正な立場からの解決を求めることができますが、いずれも強制力はありません。
 有料老人ホームがこれだけ大きな社会的問題になっている以上、もはや一般の生活相談だけで済む程度の問題とはいえません。国や東京都が強制力をもって解決できるルールをつくるべきと考えますが、現在のところ、その仕組みは存在していません。
 現時点で強制力をもって被害救済を図るためには、みずから裁判を起こすことになります。しかし、有料老人ホームに入居する高齢者にそのための気力、体力、資金を求めることは、現実には無理であります。
 そこで、消費者個人での対応には限界がある問題について、適格消費者団体が個人にかわって裁判を起こすことができる消費者団体訴訟制度が平成十九年からスタートしました。有料老人ホームをめぐるさまざまな問題に直面する高齢者を支援するためには、行政とこのような民間団体との連携が不可欠だと考えます。
 悪質な業者が排除されることは、利用者が助かるばかりでなく、結果として、真っ当な経営をしている多くの有料老人ホームにも感謝されることになろうかと思います。ご見解を伺います。
 ところで、自治体と社会福祉法人のみが設立できる特別養護老人ホームの施設基準については、現在、厚生労働省令で全国一律に定められています。
 今般、国はこうした基準を都道府県の条例にゆだねる、いわゆる地域主権推進一括法案を提案しましたが、国会運営の混迷により、再び継続審議となっています。もしこの法案が成立すれば、土地を確保しにくい東京都の実情に合った施設基準を条例で定めることができます。
 東京都は、先日、東京都特別養護老人ホーム施設整備等のあり方に関する検討委員会を立ち上げ、東京都の独自基準設定の検討を開始しました。その具体的な検討内容と今後の方向性について伺います。

〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕
◯福祉保健局長(杉村栄一君) 

 二点のご質問についてお答え申し上げます。
 まず、有料老人ホームを利用する高齢者に対する支援についてでありますが、都は、有料老人ホームが適切な施設運営やサービスの提供を行うよう、老人福祉法や介護保険法に基づき、事業者を指導しております。
 しかし、有料老人ホームについては、お話のありました入退去時などのトラブルが増加しており、これらに的確に対応するためには、消費者契約の観点からの取り組みが必要でございます。このため、都は、高齢者にかわって、事業者の不当行為に対し改善の申し入れや訴訟を提起できる適格消費者団体と、契約上のさまざまな課題について意見交換を行っております。
 今後、こうした団体と連携しながら実効性のある指導に努め、高齢者がより安心して有料老人ホームを利用できるよう支援してまいります。
 次に、特別養護老人ホームの基準の検討についてでございますが、国会で継続審議となっております地域主権推進一括法案では、特別養護老人ホームの基準は、都道府県が条例で定めることとなっております。条例に定める基準には、省令に従い定めるものと、省令を参酌して地域の実情に応じた内容を定めることができるものがございます。
 都は、こうした国の動きや、都内では広い用地の確保が困難な実情を踏まえ、独自の施設基準を定めるため、現在、廊下幅の見直しや、少人数の生活単位である一ユニットの定員上限の引き上げなどについて、建築や社会福祉等の学識経験者も交えて検討を行っております。
 今後は、基準の見直しに加え、プライバシーに配慮した多床室のあり方などについても検討し、大都市東京にふさわしい特別養護老人ホームの整備を促進してまいります。