2014.03.05 : 平成26年_第1回定例会
「ハード」と「ハート」の東京オリンピック

◯副議長(藤井一君) 七十四番早坂義弘君。
   〔七十四番早坂義弘君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

七十四番(早坂義弘君) 

 知事、ご当選おめでとうございます。
 私は、舛添知事の選挙公約、史上最高のオリンピック・パラリンピックという言葉に強い共感を持ち、支援させていただくことを決めました。と申しますのも、昨年三月の予算特別委員会で、二〇二〇年東京オリンピックは、オリンピックの歴史に残る最高のものであってほしいと私は当時の知事に対して強く訴えたからです。
 その観点から、二〇二〇年オリンピック・パラリンピック開催に向け、東京が目指すべき都市像について伺います。
 私ごとですが、昨年十月に大腿骨骨折という大けがをし、松葉づえの生活を二カ月間、余儀なくされました。病院のリハビリ室では松葉づえを使ってうまく歩けるのですが、一歩病院の外に出るとうまく歩けない。これには幾つか理由があります。
 その一つは、かまぼこ道路にあります。すなわち、雨水の排水をよくするため、道路は中心部分が盛り上がり、両端が下がっている構造になっています。そこを松葉づえを使って歩くと、体は右か左に大きく傾くのです。
 また、松葉づえは真っすぐ下にではなく、肩幅よりも横に広げて使います。したがって、車が一台ようやく通れるような狭い道では、向かってくる自転車や放置自転車にもよく気をつけないと、松葉づえがぶつかりそうになります。
 さらに、信号機が設置されている横断歩道にも苦労いたしました。歩くスピードが遅いので、一遍には渡り切れないのです。やむなく中央分離帯に引き返したことが何度もありました。
 幸いに、今日、私はつえの生活から離れることができましたが、そう遠くない将来、私自身が高齢者となれば、いつかまた、つえの生活に戻ることになるでしょう。今回の私の経験は、高齢社会がどういうものであるかを身をもって体験する、そして、今後、私たちが目指すべき社会のあり方を考える上で、かけがえのないものとなりました。
 申し上げるまでもなく、オリンピックが他のスポーツ大会と大きく異なるのは、その国の歴史に与える影響力です。つまり、史上最高のオリンピック・パラリンピックというからには、開会式の演出をどんなものにするかだけでなく、このオリンピック・パラリンピックを契機に、東京を今以上にどう魅力的にするのか。ひいては、どんな世界一の都市にするのか。その目標こそが問われているのです。
 世界史上、類を見ない速さで高齢化が進む我が国において、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックで目指すべきものは、私は、高齢社会にふさわしいバリアフリー社会の構築だと考えます。
 平成二十三年一月、JR山手線目白駅で全盲の男性が誤ってホームに転落し、死亡いたしました。
 同じく七月には、東急田園都市線つくし野駅でも同様の死亡事故がありました。
 日本盲人会連合の調べによると、視覚障害者の四〇%が電車のホームから転落したことがあるとのことです。東京都盲人福祉協会の笹川会長さんにお話を伺うと、私は三回落ちました、我々盲人にとって転落はつきものです、そこに電車が来るかどうかは全くの運任せ、私はたまたま運がよかったので命があるのですとおっしゃっていました。知事も私も政治家同士、落ちることには殊のほか敏感にならざるを得ません。
 そこで、鉄道ホーム柵の設置を急ぐべきなのは当然のことです。ですが、その完成をただ待ち望むだけでいいのでしょうか。なぜなら、私たちは史上最高のオリンピック・パラリンピック、そして世界一の都市を目指しているからです。
 先ほどの笹川会長のお話によると、欧米ではホーム柵の設置はほとんど進んでいないそうであります。では、転落死亡事故が多いかというと、必ずしもそうではない。ホームにいるお客さんが、白いつえを持った盲人を見つけると、誰かがすっとそばに駆け寄り、誘導するからであります。
 結論を申し上げれば、ホーム柵の設置も大事、そして、たまたまそばにいる人が気を配ることも大事。二〇二〇年オリンピック・パラリンピック開催を契機に、その両者がうまく機能して、東京では盲人の転落死、いや、転落そのものが一件もなくなった、そういう結果を社会全体でかち取ることの方が、地下鉄一元化の議論より、都民にとってはるかに有益であるに違いありません。
 先ほどの私自身の体験に戻りますが、初めのころには車椅子の生活をいたしました。病院は当然バリアフリーになっており、あらゆるところに車椅子用のスロープが設置されています。しかし、車椅子は、いざ使ってみると、相当に腕の力を必要とします。すなわち、スロープの距離が少し長かったり、傾斜がきつかったりすると、スロープを上るのにはかなりの困難を感じるのです。
 四十五歳男性の私でもそう感じるのですから、お年を召された皆さんがどれほど大変かは、簡単に想像がつきます。
 しかし、たまたまそこを通りがかった人がちょっと車椅子を押してくれるだけで、そこにある障害は劇的に解消されます。つまり、福祉のまちづくりというハード、施設整備に魂を入れるのは、私たちのハート、真心にほかなりません。ハードとハートであります。
 昨年のIOCブエノスアイレス総会では、おもてなしがアピールされ、多くの皆さんの共感を獲得しました。しかし、あえて意地悪な見方をすれば、おもてなしとは外からのお客さんを迎えるときのものです。
 では、オリンピックを迎える私たち都民自身が、オリンピックに向けて共有すべき理念は何か。実は、それこそがハート、真心なのだろうと思います。
 二〇二〇年オリンピック・パラリンピックを契機に、世界一の都市を目指す。それは世界中の人々がうらやむという外からの評価、あるいはシンクタンクが発表する世界都市ランキングで一位になることも重要でしょう。ですが、それが私たちの目標ではありません。
 私はハード重視でも、ハート重視でもなく、その両者がぴったりと結びついた都市こそ、私たちが目指すべき世界一の都市にふさわしい目標だと考えます。二〇二〇年オリンピック・パラリンピックを契機に、その両者をともに充実させてこそ、東京は世界一になったと私たち都民自身が実感できる都市に成長するのだと思います。
 そこで、私の考える、こうした都市像に対する知事のご見解を伺います。
   〔知事舛添要一君登壇〕

〇知事(舛添要一君) 

 早坂義弘議員のご質問にお答えいたします。
 まず、議場を走れるぐらいにご回復なさったというのは大変うれしく思っております。そういう車椅子とか松葉づえの体験というのは、これは本当にバリアフリー社会をつくるための前提になると思いますので、大変貴重なご体験であったと思います。
 目指すべき都市像についてのご質問がございました。
 私は、この東京を、全ての都民が、ここで生まれ、生活し、働き、老後を過ごせて本当によかったなと思うことができるような都市にしたいと考えております。
 そのためには、ハード、ソフトの両面から、障害者や高齢者等が安全、安心、快適に過ごすことができるまちづくりが必要でありまして、お話の言葉をおかりすれば、ハードにハートがこもった都市づくり、これが必要だと考えております。
 本来、日本には、他者を思いやり、尊重し、互いに助け合って生活する伝統がございます。
 例えば、先日の大雪の際にも、立ち往生した電車の乗客や国道で足どめに遭った車の運転手に、周辺の住民が郷土料理を提供する、そういう光景が各地で見られました。
 こうした、日本人が生来備えている相手を思いやる気持ちを、二〇二〇年に向けたまちづくりにつなげていきたいというふうに思っております。
 そのバリアの中に、外国人にとっては日本語というバリアがありますので、これも、例えば外国人おもてなし語学ボランティアというものを育成して対応したいというふうに思いますし、そのために来年度予算にその手だてを施してあります。
 今後、これらを大きく育て、東京を思いやりに満ちた世界一の都市にしていきたいと思っております。